1.核兵器の拡散
 第二次世界大戦の末期、核兵器の開発に成功したアメリカは広島・長崎に原爆を投下し核時代が始まった。アメリカが核の独占を図るも、1949(昭和24)年に旧ソ連、1952(昭和27)年にイギリス、1960(昭和35)年にフランス、1964(昭和39)年に中国と、次々に核実験に成功し、これらの国々は大量の核兵器を製造・保有してきた。核保有国の増加は、偶発的な核爆発の危険性や核技術の漏洩の可能性を高め、地球全体を巻き込む核戦争の危機を増大させるものである。
 この際限のない核拡散の流れを止めるため、1970(昭和45)年3月、核不拡散条約(NPT)が発効し、188カ国(2003(平成15)年8月現在)が批准、一定の効果を果たしてきた。しかし、この条約に未加入のインド・パキスタンが核実験を行い、核武装能力を持つにいたった。同じく未加入のイスラエルも核武装能力があると見られ、中東各国を刺激している。2003(平成15)年1月には、北朝鮮が条約からの脱退を宣言し、(核保有を認める発言を含め)核開発に走っているといわれる。今、条約はその基礎から揺らごうとしている。

「アジアの核の現在」
広島市立大学広島平和研究所専任講師  秋山信将

(特別寄稿)
アジアの核の現在

広島市立大学 広島平和研究所 専任講師  秋山信将

 冷戦後の米ロによる核軍縮の動きは、ヨーロッパにおける核の脅威を大きく低下させた。その一方で、アジアにおける核の脅威は低下するどころかむしろ高まったともいえるかもしれない。アジアには、中国、北朝鮮、インド、パキスタンなどの核保有国が存在し、しかも核拡散の懸念が非常に高まっている。
 中国はアジアで唯一NPTによって公式に認められた核保有国である。現在中国がどの程度の核戦力を保有しているかは、中国政府が具体的な数字を公表していないために明らかではないが、20基のICBM(大陸間弾道ミサイル)、150基の中距離弾道ミサイル、300基ほどの短距離ミサイルを保有していると見られている。また、新型のミサイル(東風31)の実験なども行うなど軍事力の近代化を進めている。
 北朝鮮はNPTに加盟しながら極秘裏に核開発を進めていたが1991年に衛星写真によって使用済み核燃料からのプルトニウムの抽出が明るみに出ると、北朝鮮の核開発をめぐって国際社会の懸念は深まり、米朝間の緊張は次に第高まった。94年には、それまで何度か実施されてきたIAEAの査察が不満足な結果に終わるとさらに緊張が高まり、米朝間は一触即発の危機に包まれた。この危機は、カーター元大統領の訪朝によって一応回避され、その後の米朝交渉の結果ジュネーブにおいて両国間で「合意された枠組み」が合意され。その枠組みに沿って北朝鮮は核開発を凍結し、その見返りとしてこれまでの黒鉛減速炉に替わって軽水炉2基の提供を受け、またその完成までの間エネルギー源として重油を提供されることになった。しかし、最近北朝鮮がプルトニウムではなく、高濃縮ウランによる核兵器開発を進めていたことが明るみに出、また核開発再開宣言を出すと、アメリカ側も強硬な姿勢?ナち出し、この「合意された枠組み」は事実上崩壊した。現在北朝鮮は核弾頭数個分の核分裂性物質を保有し、また、核弾頭の運搬手段としてはノドンという中距離ミサイルを保有し、テポドンという長距離弾道ミサイルの開発を進めているといわれている。こうした危機的な状況を回避すべく、米朝に中国、韓国、ロシア、そして日本を含めた六者協議が今年8月末に持たれているがその行方は予断を許さない。
 この両国の核戦力に影響を与える可能性があるのが、米国が推進しているミサイル防衛である。米国は2001年12月にABM条約から脱退を発表し、2002年6月には条約は失効した。また、日米がミサイル防衛について共同研究を進め、さらにその段階を進めようとしていることは、両国の警戒心を高め、この地域の核軍縮に負の影響を与える恐れがあることも否定できない。
 また、目を南アジアに転じてみると、インドとパキスタンがNPTに加盟しない核保有国として存在している。インドは90発とも200発ともいわれる核を保有し、パキスタンも30発とも150発ともいわれる核兵器保有能力があると推測されている。(数字の差は研究によるばらつき)インドはNPTの不平等性を主張し、パキスタンはインドの核保有を理由に NPTへの加盟を拒んでいる。両国はカシミールの帰属問題を巡り3次にわたって武力紛争を繰り広げ、いまだ対立関係は継続している。両国とも核の保有は大量破壊兵器に関する最小限の抑止のためとしてはいるが、地域紛争のエスカレーションの中で核が使用される可能性も高まっており、国際的な軍縮体制にとっても、地域の安定にとっても大きな懸念材料となっている。

2003年8月