キャンペーン近況
本財団 理事長 スティーブン・リーパー
プロフィール
〔スティーブン・リーパー〕

1947年米国生まれ。米国・ウェストジョージア大学大学院(臨床心理学修士課程)修了。 広島YMCA講師、(有)トランズネット取締役、(株)モルテン海外渉外アドバイザー、平和市長会議米国代表、本財団専門委員などを歴任し、 2007年4月理事長に就任。

この記事を重苦しい気持ちで書いています。 東日本大震災の被害、被災者たちの茫然(ぼうぜん)とした姿に心が痛みます。 国内外から支援が続々と寄せられていますが、多くの被災者がいまだ避難所での不自由な生活を強いられ、悲しみの中に沈んでおられます。 皆さまが1日も早く元の暮らしを取り戻されることを願ってやみません。 一方で、事故から6ヵ月以上たった今でも、福島第一原子力発電所の状況が終息する兆しは見えません。 1日も早く事故が収拾されることを願っていますが、この事態は、われわれ傲慢(ごうまん)な人類が、またしても、とてつもない自然の威力を思い知らされたということだと思います。 われわれは自然の法則に従って生きるべきなのです。
さて、核兵器の話に移りますが、これもまた、是正(ぜせい)べき人類の(おご)りの表れにほかなりません。
  「ヒロシマ・ナガサキ議定書はどうなった?」今でも、どこに行ってもこの質問が付きまといます。 そこで、もう一度、議定書の話をおさらいし、その延長線上に展開することになるキャンペーンの最新情報をお届けしたいと思います。
  まず、議定書は、ブッシュ政権下の2008年4月に発表されたことを思い出してください。 ブッシュ政権と米国の国連大使ジョン・ボルトンのことを覚えていますか? ボルトン大使は、核兵器廃絶の実現を迫る国々にことごとく反発していました。 ですからヒロシマ・ナガサキ議定書が採択される可能性は低かったのですが、実は議定書は採択されるためだけに作られたのではないのです。 われわれのビジョンを達成するために何ができ、何をすべきなのかを明記することで、2020ビジョン・キャンペーンを促進し、強化するために作られたのです。 この限りにおいては、議定書は大成功を収めました。
  バラク・オバマが米国の大統領になり、プラハであのスピーチをしたことで、すべてを変えたことも思いだしてください。 2009年5月のNPT(核不拡散条約)再検討会議準備委員会では、各国代表がわれ先に立ち上がり、あのプラハ・スピーチを引用しながら、
スティーブン・リーパー本財団理事長(前列右)の案内で、
広島平和記念資料館を視察する潘基文(パン ギムン)国連事務総長(前
列中央)(平成22年8月6日)
核兵器のない世界に向けたそれぞれの決意を表明しました。 その時、多くの外交官やNGOコミュニティの活動家が、NPTに対して議定書を推し進めるより、むしろ直接、核兵器を完全に禁止する、核兵器禁止条約を推し進めるべきだと考えたのです。
  平和市長会議はこの新しい前向きな軍縮の機運を歓迎していますが、やはり議定書には果たすべき役割があったと思っています。 草の根の注目を()きつける格好のツールとなったのであり、よって、各国政府への圧力をかけることへとつながったのですから。 議定書があったからこそ、Yes!キャンペーン、そしてピース・キャラバンが、核兵器の問題に無関心だった大衆の眼を覚ますという成果をあげることができたのです。 結局、議定書は採択されませんでしたが、キャンペーンは並はずれた影響力を発揮しています。 日本全国の6割を超える自治体の首長が議定書を支持する公式の署名を行っています。 議定書を解説する絵本は2万冊近く売れ、2010年5月の再検討会議の席上、日本政府は議定書について言及したのです。
  前述の再検討会議に参加するため、2千人を大きく上回る日本人がニューヨークに行き、重要なNGO会議、集会やパレードを主催し、盛り上げてくださいました。 再検討会議そのものは、核兵器依存国とその他の世界との激しいやりとりに終始しましたが、幸い最終文書が採択され、廃絶への前進であると高く評価されています。 会議の全般的な結果は肯定的に受け止められたのです。 ここ広島では、平和市長会議とヒロシマ・ナガサキ議定書が、この成果を出したことに大きく貢献したと考えられています。
  他方で、再検討会議では、核兵器依存国の本音が露呈(ろてい)しました。 核兵器のない世界を追求すると約束し直したにもかかわらず、彼らが現状維持を決意していることは明らかです。 軍縮交渉をいつ、どのように、どこで開始するかを明文化することをことごとく拒否したのです。 核兵器のない世界のために交渉すると、これまでの42年間約束してきたあげく、やはり実際に交渉の座につく意向はまったくないという態度を見せたのです。 廃絶のための思いきった、積極的な前進が求められているとき、核兵器国は「いや、このままの世界がいい」と言い放ったのです。

幸いなことに、核兵器国によるこの許し難い態度が、新しい動きを触発(しょくはつ)しました。 この動きは昨年7月、広島で出現したのです。 元カナダ上院議員で外交官のダグラス・ロウチが、2020核廃絶広島会議における基調講演で「機は熟した」と口火を切りました。 つまり、核兵器禁止条約に取り組む時がきた。核兵器を禁止する時が来たということです。
  ロウチ議員のスピーチは、軍縮コミュニティの戦略思考に大きな転換をもたらしました。 2010年まで、ほとんどの政府や、NGOたちでさえ、核兵器禁止条約という発想に反対していました。 核兵器国が調印を拒否した条約など意味がないと考えていたのです。 しかし今は、核兵器を特定して、明確に非合法化する条約に向けた交渉の開始を求めることで完全に一致しています。
  たとえ核兵器国が加盟しないとしても、禁止条約があれば効用はいくつかあります。 第1に、これが世界の規範を設定することになります。 世界は、「核兵器は悪」という信念を宣言するのです。 その時から、核兵器を保有する国は「ならず者国家」になるのであり、世界のコンセンサスの外に位置付けられることになります。 第2に、核兵器のない世界を目指している国と、そうでない国が、非常にはっきり見えるようになります。 この透明性が、ならず者国家に、たやすく政治的、社会的、さらには経済的圧力をかけることを可能にするのです。 第3に、核兵器のない世界に向けて断固とした前進を図ることで、国際社会は、あらゆる核兵器活動をさらに困難にする政治的気運を作ることができます。 晴れて条約が成立すれば、新たな規範やコントロール・システムが威力を発揮し、核兵器の取得、開発、配備や使用をさらに困難にすることが期待できます。 4番目に、核兵器を禁止するグローバル・キャンペーンが脚光を浴び、世界の民衆の注目を集めることができます。 世界中の大多数の人は核兵器のない世界に住みたいと思っているので、核の脅威を2、3年にわたって連日ニュースに載せていくことが、ならず者国家の政治家に、核兵器禁止を支持するよう圧力をかけることにつながると考えています。

こうして、軍縮コミュニティは、核兵器の保有と使用を明白に非合法化する核兵器禁止条約の成立を目指すことを決意しました。 しかし、平和市長会議がこれを実現することはできません。 これは政府間レベルでなされなければならないのです。 幸い、いくつかの国が、プロセスを開始する方向に動き出しています。 例えばノルウェーは、ジュネーブとオスロにICAN(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons=核兵器廃絶国際キャンペーン)の事務所を開設する資金を提供しています。 カナダも会議の開催地として名乗りをあげています。 しかしながら、これまでこの動きをもっとも強力に牽引(けんいん)してきたのはウルグアイです。
  ウルグアイは、これまで2回ニューヨークで会合を開催しています。 これらの会合の目的は、閣僚級特別軍縮会議の計画を練ることで、参加各国は、それが条約プロセスへと発展していくことを願っています。 1月18日に開催された第1回目の会合には13ヵ国が参加し、3月24日の第2回会合には22ヵ国が集まりました。 4月に予定されていた3回目の会合は延期され、非公式に、ある重要な手続き上の問題についての話し合いが行われているところです。
  これらの会合や、ノルウェーやカナダによる便宜供与(べんぎきょうよ)は、すべて、強力で一丸となったグローバル・キャンペーンを展開するための水面下の準備作業にすぎません。 今年、あるいは来年の早い時期に、このキャンペーンが浮上してくることを私は確信しています。 これが出現するとき、皆さんが注目し、支持し、時間と資金を投入してくださることを願っています。
  このキャンペーンを世界中で繰り広げていくために、われわれ地球市民全員が、できるだけのことをしなければなりません。 成功させるためには、キャンペーンは巨大でなければなりません。 巨大なキャンペーンにするためには、世界中の指導者から、社会人、学生、子どもまで、あらゆるレベルの支持を集めなければなりません。 あらゆるレベルの支持を得るためには、芸術から映画、音楽、娯楽、平和行進、学びの場まで、さまざまな行事を行う必要があります。
  そこで、皆さんにお願いがあります。アート・ショー、映画上映会、コンサート、講演会、シンポジウム、あるいはギネス・ブックへの挑戦など、核兵器禁止条約を求める世論を高めることができると考えられるイベントをできる限り企画・実施してください。 皆さんの協力があれば、核兵器禁止条約が実現できるのです。 できる限りのご支援、ご協力をお願いします。
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