和文機関紙「平和文化」No.207, 令和3年9月号

平和に向けての新たな地平=平和文化の振興

小泉 崇
(こいずみ たかし)
平和首長会議事務総長
小泉理事長

 7月7日、従来の2020ビジョンに代わる「持続可能な世界に向けた平和的な変革のためのビジョン(略称PXビジョン)」がオンラインで開催された平和首長会議理事会において策定されました(詳細次項参照)。 この日はいみじくも4年前に「核兵器禁止条約」が採択された日に当たります。
 この新ビジョンでは「平和文化の振興」という目標が新たに打ち出されました。 8月6日に松井(まつい)広島市長(平和首長会議会長)が行った平和宣言では、「為政者を選ぶ側の市民社会に平和を享受するための共通の価値観が生まれ、人間の暴力性を象徴する核兵器はいらないという声が市民社会の総意となれば、核のない世界に向けての歩みは確実なものになる」とし、「世界中で平和への思いを共有するための文化、『平和文化』を振興し、為政者の政策転換を促す環境づくりを進める」必要が述べられています。 ここに「平和文化の振興」という市民社会にとってより根源的な目標を含むものとなった新ビジョンの意義が端的に述べられていると思います。
 これまでビジョンの中心的な柱となっていた「核兵器のない世界の実現」は全人類に課せられた課題といえるものであり、また、第二の柱である「安全で活力のある都市の実現」は地域ごとに異なる多様な課題への取組を重視したものでした。 これに対し、新たな柱である「平和文化の振興」は、世界的な規模の平和という含意を持ちつつも、肝心なのは市民一人一人による日常生活の中での取組にあると思われます。 その意味で、「平和文化」は内容として多様であり、誰もが自らにとっての「平和文化」という独自性を持ちうるものです。 そして、その「振興」とは、今までとは違った何か特別なことをすることではありません。
 例えば、被爆者の方が「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」との思いから被爆体験を語ることは「平和文化の振興」に当たるでしょう。 また、より身近な例として、各自が自らの幸福、あるいは各家庭の平和や幸福を追求することも立派な「平和文化の振興」に当たるものだと思います。 なぜなら、そうした行為がすべからく「平和」に繋(つな)がっていくと思うからです。 このように「平和文化の振興」は、人種、性別、年齢などの別を問わず、どの都市の誰もが取り組める「平和活動」であることから、新ビジョンは「平和に向けての新たな地平を開く」ものであると考えます。
 平和首長会議は、1982年6月24日、当時の荒木(あらき)広島市長が国連軍縮特別総会で世界の都市に国境を超えて連帯し、共に核兵器廃絶への道を切り開こうと呼び掛けたことに端を発し、1985年に第1回世界平和連帯都市市長会議の開催として結実、明年で40周年の佳節を迎えます。 この機会を捉え、平和首長会議は核兵器のない平和な世界を目指し、「平和文化の振興」を大いに宣揚していくべきであると考えます。
(令和3年8月)
 

平和首長会議が新ビジョン・行動計画を策定

第12回平和首長会議理事会を開催
 平和首長会議はこれまで、被爆者の存命のうちに核兵器廃絶を実現したいとの願いから、2020ビジョンの下で核兵器廃絶に向けた様々な取組を進めてきました。 この2020ビジョンが昨年末をもって終了したため、7月7日に広島市・長崎市を始め18の役員都市の参加を得て第12回平和首長会議理事会をオンラインで開催し、全会一致で新ビジョン及び2025年までの行動計画を策定しました。
理事会の出席者
理事会の出席者
PXビジョン
 新ビジョンの名称は、核兵器を廃絶し、人類の共存が持続可能となることにより、あらゆる人が永続的に平和を享受できる世界、すなわち「世界恒久平和」を実現するために、市民が連帯する都市を創造するという観点から、「持続可能な世界に向けた平和的な変革のためのビジョン―都市による軍縮と人類共通の安全保障に向けた平和構築―」としました。 (略称:PXビジョン/英語名:Vision for Peaceful Transformation to a Sustainable World)
 このPXビジョンでは、世界恒久平和への道筋として、「核兵器のない世界の実現」、「安全で活力のある都市の実現」、「平和文化の振興」という三つの目標を掲げています。
A 核兵器のない世界の実現
 都市とその市民が標的となり、使用の影響が地球規模となる核兵器は、市民の安心・安全な生活を脅かす最大の障壁であるため、国連・各国政府とりわけ核保有国及びその同盟国に核兵器廃絶に向けた行動を要請することにより、為政者の政策転換を促します。
B 安全で活力のある都市の実現
 市民の安心・安全な生活をより確かなものとするため、人類の共存を脅かす飢餓・貧困等の諸問題の解消さらには難民問題、人権問題の解決及び環境保護といった地域ごとに異なる多様な課題に取り組みます。
C 平和文化の振興
 核兵器廃絶に向けた為政者の政策転換を促す環境や、人類の共存に向けて連帯する市民社会をつくるため、市民一人一人が日常生活の中で平和について考え行動するという、より根源的に重要な「平和文化」を市民社会に根付かせ、平和意識を醸成していきます。
平和首長会議行動計画(2021年-2025年)
 ビジョンと併せて策定した行動計画は、都市がそこに居住する市民を核兵器の脅威から確実に守るとともに、人類の共存を持続可能とするため、ビジョンの三つの目標の下で加盟都市と共に進める取組を掲げています。
 
1 被爆者の思いの共有
 「A 核兵器のない世界の実現」では、“被爆者の思いの共有”を根底に据えて取組を進めていくこととしています。
 具体的には、被爆者が長年訴えてきた核兵器廃絶に向けて、今年1月に発行した核兵器禁止条約の影響力を最大限まで高めるために、批准国の拡大を促進していきます。 そのためにも、核保有国及びその同盟国に対して、まずは締約国会議へオブザーバーとして参加すること、そして、同条約の実効性を高めていくための議論への参画や、普遍的な核軍縮体制の確立に誠実に取り組むことを要請します。
 また、NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議や核兵器禁止条約締約国会議等の核軍縮に関する国際会議など様々な機会を捉え、被爆者の切なる願いを礎として、核兵器廃絶に向けて核軍縮を進展させていくため、「核抑止からの脱却」、「NPTが課す核軍縮義務の遂行」及び「被爆地訪問」の必要性を訴え、相互協力に基づく安全保障体制を実現するよう国連・各国政府に要請していきます。
 さらに、幅広い市民による為政者の政策転換に向けた働き掛けとして、全ての国に核兵器禁止条約の早期締結を求める署名活動を引き続き実施していきます。
 
2 持続可能な地球・社会への貢献
 「B 安全で活力のある都市の実現」では、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の遂行により“持続可能な地球・社会への貢献”を果たすことを目指し、テロ、難民、環境破壊、多様性と包摂性の軽視等の諸問題が解決されるよう、世界の各地域で取組を推進していくこととしており、現在、世界各地に24あるリーダー都市が、それぞれの地域の実情に沿った主体的な活動を展開していきます。
 
3 国際世論の醸成・拡大
 「C 平和文化の振興」では、「核兵器のない世界の実現」と「安全で活力のある都市の実現」を支えるために、世界恒久平和を希求する“国際世論の醸成・拡大”を進めることが重要と考え、三つの取組を推進していくこととしています。
 まず、より多くの市民に平和の尊さについて考えてもらい、市民社会における平和意識を醸成するために、芸術やスポーツなどを通じた多様なイベントを開催するとともに、国際的な平和研究機関との連携の下、核兵器に関する情報をホームページやメールマガジンなどにより発信していきます。
 また、より多くの市民に被爆や戦禍の実相について理解を深めてもらうために、ポスター展の開催や被爆体験・戦争体験講話を聴講する機会を提供します。
 さらに、次代の平和活動を担う青少年に、被爆の実相についての理解を深めるとともに平和の尊さについて考え、核兵器のない平和な世界に向けて主体的に活動してらうために、「子どもたちによる“平和なまち”絵画コンテスト」を始めとした平和教育の充実や平和・軍縮教育の普及などの取組を推進します。
 
4 持続可能な組織づくりの推進
 こうした取組を継続的に展開していくためには、“持続可能な組織づくりの推進”が不可欠であり、ここでは「加盟都市の拡大」、「加盟都市における活動の充実」、「多様な主体との連携」、「事務局機能の充実」、「財政基盤の充実」の五つの取組を推進していくこととしています。
 具体的には、1万都市加盟を目指して加盟都市を拡大しながら、それぞれの活動を充実させるとともに、国際的な機関やNGO、平和研究機関などと連携していきます。
 
 平和首長会議は、この度策定したPXビジョン及び行動計画に基づき、加盟都市と共に世界恒久平和の実現に向けてたゆまず行動していきます。
(平和首長会議運営課)
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