2021年1月22日の核兵器禁止条約の発効により、核兵器のない世界の実現に向け新たなスタートが切られましたが、国益追求を重視する現下の国際情勢にあっては、為政者の核抑止論からの解放は程遠い状況と言わざるを得ません。
こうした中、人間の暴力性を象徴する核兵器の廃絶が市民社会の総意となり、政策転換を促すような社会状況を形成していくことがますます必要となります。
そのためには、市民一人一人が日常生活の中で平和について考え行動し、戦争や紛争、差別や偏見なども含むあらゆる暴力を正当化することがない状況、つまり「平和文化」が市民社会に根付いた状況にすることが重要と考えられます。
こうした考えの下、広島市が昨年から毎年11月を「平和文化月間」と定めたことを受け、本財団では広島市と連携し、期間中に「平和」への思いの共有につながる「文化」を振興する様々なイベントを開催しました。
多くの方々が参加してくださり、平和への思いをあらたにしました。
期間中の各種イベント等の際には、平和文化月間のイメージカラーであるイエローグリーンのPRリボンの着用や月間ロゴマークにより「平和文化」をPRするとともに、賛同を呼びかけました。
平和文化講演会の開催 【11/1(月)】
平和文化月間オープニングイベントとして、俳優のサヘル・ローズさんをお迎えし、「出会いこそ、生きる力」をテーマに、平和文化講演会を開催しました。
俳優として映画、舞台、テレビなどで活動される一方、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めるなど、幅広く活躍していらっしゃるサヘルさんですが、イランで生まれ、4歳まで孤児院で育ち、養母と出会い8歳で来日後も、苦しくて大変な生活を経験してこられました。
そうした中、様々な人との出会いを通して、前向きに生きられるきっかけとなったエピソードの数々は、心温まるものばかりで、自分の在り方や人との関わり方を深く考えさせられるものでした。
辛い過去を乗り越え、明るく素敵な笑顔で語られるサヘルさんのたくさんの前向きなメッセージは、来場者の心に大きく響き、会場は暖かい感動の輪に包まれました。
平和文化の取組への共感と賛同を示されたサヘルさんのお話は、平和を願うヒロシマの心、平和文化の心に通じるものであり、平和文化月間の幕開けにふさわしいオープニングイベントとなりました。
市民平和文化イベント ~つなぐ平和への思い、未来へ~ 【11/3(水・祝)】
広島国際会議場の大会議室ダリアで「市民平和文化イベント ~つなぐ平和への思い、未来へ~」を開催しました。
広島で平和活動に取り組む若者や市民団体10団体が、ステージ発表や展示発表で、日頃の活動や平和への思いを発信しました。
オープニングでは、松井一實
(まつい かずみ)広島市長より、「音楽や美術といった芸術文化活動の発表を通じて、平和への思いを共有するイベントは、まさに『平和文化』を根付かせるものであり、多くの市民の皆様に御参加いただいていることを嬉うれしく思います」との挨拶がありました。
<ステージ発表>
4団体が、それぞれの取組を発表し、平和のメッセージを発信しました。
どの演目も、ステージ発表者と参加者が一体となって、平和の大切さを改めて考えるすばらしいステージ発表となりました。
◇ 杉並台(すぎなみだい)幼稚園(音楽劇「ぞうれっしゃがやってきた」)
戦争を生き延びた2頭のゾウを飼育する愛知県名古屋市の東山
(ひがしやま)動物園に、日本各地の子どもたちが特別列車で訪れた実話を基に制作された絵本を題材に、園児たちが地元のオカリナグループの演奏のもと、可愛らしい歌声と踊りで音楽劇を演じました。
会場には絵本の作者である小出隆司
(こいで たかし)氏も駆けつけ、園児たちの演技を観賞し、最後には、広島市長とともにステージ上で園児たちと一緒にフィナーレを盛り上げました。
「ぞうれっしゃがやってきた」を演じる園児たちと、松井広島市長、作者の小出氏
◇ 千田パンフルート合唱隊
かつて広島市立千田
(せんだ)小学校に生育して枯れてしまった被爆樹木「カイヅカイブキ」を部材に作られた楽器「パンフルート」の演奏と合唱を披露しました。
最後の、広島東洋カープの応援歌「それ行けカープ」では、観客の手拍子が沸き起こり、合唱隊と観客が一体となって楽しい時間を過ごしました。
(左)「ぞうれっしゃがやってきた」を演じる園児たちと、松井広島市長、作者の小出氏
(右)千田パンフルート合唱隊によるパンフルートの演奏
◇ 中国新聞ジュニアライター
自分たちの活動紹介とともに、メンバーの平和に対する思い、若者が平和のためにできることなどを提言しました。
原爆ドームに関連したクイズも出題し、観客と交流を深める発表となりました。
◇ 平和創作劇 I PRAY
ステージ発表の最後の演目として、人類史上初めて広島に原子爆弾が投下されてから復興までを力強く描いた平和創作劇を上演しました。
4歳から小中学生、大人を含めた17名が演じ、二度と核兵器の使用という惨事が繰り返されないよう、祈りを込めたパフォーマンスに、会場は感動に包まれました。
(左)中国新聞ジュニアライターによるプレゼンテーション
(右)平和創作劇 I PRAY によるパフォーマンス
<展示発表>
6団体がそれぞれの日頃の活動成果と、平和への思いを発表しました。
会場内には、子どもたちが折り鶴再生紙に描いた絵を缶バッジに加工して記念品として持ち帰ってもらうコーナーや、ハト型のシールに平和のメッセージを書いて貼り付ける参加体験型コーナーも設け、来場者にも平和への思いを形にしてもらいました。
加えて、平和文化月間中の各種イベントのチラシを設置した情報コーナーも設け、月間行事をPRしました。
◇ 広島市立大学平和活動サークルS2
活動紹介とともに、佐々木禎子
(ささき さだこ)さんが折った折り鶴と同じ大きさの鶴を折る体験型ワークショップを行い、来場者の平和への思いを込めた小さな折り鶴がたくさん作られました。
◇ 平和と美術と音楽と with おきあがりこぼしプロジェクト
福島の伝統工芸品である「おきあがりこぼし」に様々なメッセージを込めて絵付けされた100体以上のおきあがりこぼしと、松井広島市長や有名漫画家たちが制作したおきあがりこぼしが展示され、多くの来場者が写真に収めるなど、展示に見入っていました。
◇ 広島市立広島商業高等学校ピースデパート
広島商業高等学校のピースデパートや、姉妹校の長崎市立長崎商業高等学校との共同平和宣言、広島長崎平和の鐘プロジェクト、共同開発商品などを通した交流が紹介されました。
来場した小さな子どもも平和の鐘を鳴らし、時折会場内に鐘の音色が響き渡りました。
◇ 広島なぎさ中学校・高等学校中高国際部
「小さな祈りの影絵展」の展示と中高国際部の部員によるこれまでの活動と影絵が紹介され、来場者は幻想的な影絵の世界に引き込まれていました。
◇ 広島市立広島工業高等学校機械科
銅板の折り鶴制作の実演とワークショップでは、制作過程の展示に加え、参加者が実際に銅板の折り鶴を制作する体験コーナーがあり、多くの子どもたちが機械科の生徒たちの指導を受けながら銅板の折り鶴の制作に取り組んでいました。
◇ ホロコースト記念館 Small Hands
同記念館と24年間にわたり活動を続けている子どものボランティアグループ「Small Hands」の活動紹介と、広島では初展示となる強制収容所で使用されていた「子どもの収容者服(実物)」や、子どもたちが接ぎ木で増やしている「アンネのバラ」が展示され、来場者が足を止めて熱心に説明を聞いていました。
<来場者のメッセージ>
会場内に設けた来場者からのメッセージコーナーには、多くのメッセージが寄せられました。
- 「核なき世界の実現を!世界のみんなが笑顔ですごせますように」
- 「世界中の人々が涙を忘れて毎日を笑顔ですごせるときが訪れますように」
- 「みんながやさしいこころもってくらせる、そんなせかいになりますように…」
会場にはおよそ300人が訪れ、ステージ発表の鑑賞や体験コーナー等での交流・情報交換などを行い、芸術文化活動を通して参加者と来場者が「平和文化」を体験できた一日となりました。
このイベントへの参加を通して、平和の取組を行っている若い世代同士の交流も図ることができ、また、その取組を応援するあたたかい声掛けなどもあり、参加者にとっても来場者にとっても平和への思いを新たにする機会となりました。
オンライン配信 被爆ピアノコンサート ~被爆ピアノと奏でる平和の調べ~ 【11/13(土)配信開始】
平和文化の形は様々で、平和への願いをこめて表現される音楽もその一つです。
私たちの日常の中で身近な「音楽」を通じて平和について考えていただくため、広島にゆかりのある演奏家が、原爆犠牲者への慰霊と追悼を込めて演奏する被爆ピアノコンサートを11月13日(土)からオンライン配信し、これまでに約850人に視聴いただきました。
「夕焼け」を演奏する中川詩歩さん(右)と𠮷川絢子さん(左)
「一本の鉛筆」を演奏する大林武司さん(左)二階堂和美さん(中央)姜暁艶さん(右)
使用した被爆ピアノは、平和記念公園のレストハウスの2階に展示してある河本明子
(かわもと あきこ)さんが愛奏していたピアノです。
明子さんは19歳の時に学徒動員の作業中に被爆し、原爆投下翌日の8月7日に亡くなりました。
ピアノには原爆の爆風で飛び散ったガラスの破片が今も刺さっており、美しい音色とともに、原爆の悲惨さを私たちに伝えてくれています。
コンサートでは、明子さんが大好きだったショパンの曲の中から「別れの曲」が中国大連
(だいれん)市出身の二胡
(にこ)奏者の姜暁艶
(ジャン ショウイェン)さんとピアニスト新宅雅和
(しんたく まさかず)さんにより演奏されました。
また、ソプラノ歌手の中川詩歩
(なかがわ しほ)さんとピアニスト𠮷川絢子
(よしかわ あやこ)さんによる「夕焼け」、広島市出身でニューヨークを拠点に活動されているジャズピアニスト大林武司
(おおばやし たけし)さんによる「GO UP HIROSHIMA」、大竹市在住のシンガーソングライター二階堂和美
(にかいどう かずみ)さんによる「いのちの記憶」などの演奏のほか、大林さん、二階堂さん、姜さんによる「一本の鉛筆」など、平和への思いを被爆ピアノの音色にのせて演奏していただきました。
「夕焼け」を演奏する中川詩歩さん(右)と𠮷川絢子さん(左)
「一本の鉛筆」を演奏する大林武司さん(左)二階堂和美さん(中央)姜暁艶さん(右)
PEACEキッズキャンパス 【11/14(日)】
平和の大切さを考える児童向け芸術ワークショップを開催しました。
3歳から12歳までの児童25名と保護者が参加し、平和学習アニメを視聴した後、折り鶴再生紙を使った紙粘土で原爆ドームのオブジェを作りました。
広島市立大学芸術学部の森永昌司
(もりなが しょうじ)教授指導のもと、色とりどりのモールでドーム部分の骨組みを作った後、折り鶴再生紙の紙粘土で自由に壁を貼り付け、思い思いの原爆ドームを親子で一緒に作りました。
最後はみんなでライトアップし、キラキラと光る作品に歓声があがりました。
参加した児童からは、「楽しかったよ。また来るね。」という声が聞かれ、保護者からは、「子どもと工作をする平和な時間がいつまでも続いてほしい」といったメッセージが寄せられました。
平和学習アニメの視聴と作品づくりを通じて、親子で一緒に平和の大切さについて考えてもらう機会になりました。
みんなで伝え合おうヒロシマ・ナガサキ ~広島の会2021~ 【11/20(土)】
被爆者が高齢化する中、様々な世代がそれぞれの方法で被爆体験をつないでいくことが大切であるとの思いから、朗読を中心に被爆者の思いを伝える「みんなで伝え合おうヒロシマ・ナガサキ ~広島の会2021~」が開催されました。
このイベントは、日頃から広島市内で被爆体験記朗読の活動などを行っている様々な団体の有志が集い、初の試みとして企画されたもので、本財団が共催しました。
広島の被爆者、岡田恵美子(おかだ えみこ)さんの被爆体験記を朗読する高校生
会場では、広島県内の高等学校放送部の皆さんが被爆者や遺族等から聴き取りながら制作した映像作品の上映のほか、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の朗読ボランティアの有志や長崎市の朗読グループも参加し、広島と長崎の被爆体験記の朗読や朗読劇などが上演されました。
広島の被爆者、岡田恵美子(おかだ えみこ)さんの被爆体験記を朗読する高校生
来場者からは「高校生など、幅広い年齢層の方々の参加があってよかった」「演目も多様であり、平和を考える貴重な機会となった」などの感想が寄せられ、出演者と来場者がヒロシマ・ナガサキの被爆者の思いを共有し、平和への思いを新たにする機会となりました。
ヒロシマ・ピースフォーラム 映画「ヒロシマへの誓い ―サーロー節子とともに―」の上映 【11/27(土)】
平和文化月間のイベントの締めくくりとして、核兵器禁止条約の発効に尽力され、2017年のICANのノーベル平和賞授賞式で受賞演説をされたカナダ在住の被爆者サーロー節子
(せつこ)さんの半生を追ったドキュメンタリー映画「ヒロシマへの誓い ―サーロー節子とともに―」を上映するとともに、中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターの金崎由美
(かなざき ゆみ)センター長に「核兵器禁止条約発効までのあゆみとこれから」と題してご講演いただきました。
金崎センター長は、核兵器禁止条約についての解り易い解説とともに、締約国会議へのドイツのオブザーバー参加表明について評価しつつ、長年の取材を通して感じたことやサーロー節子さんとのエピソードなどを語っていただき、最後に、広島市出身でニューヨーク在住のこの映画のプロデューサー竹内道
(たけうち みち)さんからの「この映画が、皆さんにとって平和な世界のためのアクションを起こすきっかけとなれば嬉しい」との音声メッセージを紹介していただきました。
来場者からは、「小さな行動の積み重ねが大切であると、あらためて感じることができた」「サーローさんの言葉一つ一つにエネルギーがあり、感動した」などの感想が寄せられました。
講演と映画を通して、サーロー節子さんの思いに共感するとともに、日常生活の中で平和を願い、一人一人が小さなことでも行動していく大切さを来場者の皆様と共有することができたイベントとなりました。
平和文化賞の受賞者が決定!
平和文化月間の取組の一つとして、広島市教育委員会が毎年実施している「青少年からのメッセージ」の応募作品のうち、日常生活の中で「平和」を願う気持ちが強く感じられる4作品を「平和文化賞」として表彰しました。
「こんな広島がいいな」のテーマのもと、自分たちの住むまちを大切に思い、理想とするまちの姿を作文や漫画・イラストで表現するものであり、まさに「平和文化」に相応しいものでした。
作文部門 小学生の部
広島市立早稲田(わせだ)小学校六年
中谷 慎二郎 (なかたに しんじろう)
「助け合いの広島」
あの悲劇から76年。
広島に原子爆弾が投下され、多くの人々の命が失われました。
それなのに「75年は草木も生えぬ」と言われた広島には、透き通った川が流れ、活気あるにぎやかな町が広がっています。
広島の人々は、どんなに町がきずついても、諦めませんでした。
みんなで協力し、助け合い、僕たちの世代まで「広島」をつないできてくれました。だから次は僕の番です。
僕は、困っている人がいたら、すぐに周りの人たちと助け合って、みんなが毎日を楽しく過ごせる町になったらいいなと思います。
それは、こんな助け合いに触れたからです。
僕が二年生の時でした。
友達と一緒に学校から帰っているときにねんざをしてしまいました。
その時、周りにいた友達が先生を呼びにいってくれて、来てくれた先生が助けてくれたのです。
僕は心がとても楽になりました。
この体験から、この「助け合い」をみんなに届けたいと思いました。
広島は、「助け合いの町」です。
助け合いはみんなに幸せを運ぶのです。
作文部門 中学生の部
広島市立五日市(いつかいち)中学校二年
加藤 舞 (かとう まい)
「広島だからできること」
広島市には、被爆した当時の姿を残し、平和の大切さを伝えている原爆ドームがある。
平和とは何か?
私が思う平和とは、みんなが安心して笑いあえる生活。
互いに尊重しあえること。
そして、自由であること。
しかし、全ての人がそのような暮らしをすることは容易いことではない。
平和都市となった広島に世界中から訪れる人々は皆、平和の大切さを改めて知りたいのだと思う。
訪れた人に原爆の悲惨さや平和の大切さを伝え、広げていく。
それはきっと、原爆投下から苦難を乗り越え、復興を果たした歴史がある広島だからこそ出来ることだ。
広島から世界へ平和の種をまくことが出来たら、こんなに素敵なことはない。
この先もずっと、平和を願う人々が自然と集まり、笑顔が溢
(あふ)れる街であってほしい。
そして、「平和といえば広島」と世界中の人に思ってもらえるような街にしていきたい。
そのために、私は広島のことをもっと学びたいと思っている。
平和な広島が私は大好きだ。
作文部門 高校生・一般の部
広島県立可部(かべ)高等学校三年
桑原 あすか (くわばら あすか)
「私たちが後世に残せること」
私はSDGsの平和について考えました。
皆さんは、広島に原爆が落ちた日にちを言う事ができますか?
私は、すぐに思い出す事ができません。
原爆は怖かった、二度と起きてほしくないなど思うだけで、当時の出来事は時が進むにつれて記憶から薄れてきているのではないでしょうか。
私の曽祖母は、当時、被害が出た場所に派遣される看護師でした。
仲間の皆と行動していた曽祖母は部屋に忘れ物をした事に気づき、走って取りに帰りました。
その直後に近くで原爆が落ち、忘れ物を取りに帰った曽祖母だけが残され、他の仲間は原爆に巻き込まれたそうです。
看護師をしていたという理由もあり、曽祖母はあの日以来、肉が食べられなくなってしまいました。
私は、この曽祖母から聞いた話を後世に伝えていって、絶対にこのような事があってはいけないという事をたくさんの人に知ってほしいです。
当時の人達が苦しんだ分、私達はこの出来事を受け止めて後世に残し、SDGsの平和を守っていきたいと思います。
漫画・イラスト部門
広島市立高南(こうなん)小学校一年
河野 和希 (こうの かずき)
「へいわがいいな」
ぼくは、へいわなまちがいいので、ひととどうぶつがあつまってわらっているえをかきました。
(平和市民連帯課)