広島平和記念公園へ海外からの来訪者が増えている。今春、相次いで二人のノーベル平和賞受賞者が来訪した。
一人はポーランドの「連帯」の指導者で大統領も務めたレフ・ワレサ氏。
慰霊碑の前で、原爆死没者の総数を伝え、「安らかに眠ってください 過ちは 繰り返しませぬから」との碑文を紹介したとき、ワレサ氏はしばらく沈黙した。
その後、深い憤りと無念の表情で「何でこれほど多くの尊い命が失われたのか、国際社会はこれを止められなかったのか。」と言われた。
その上で3点を強調された。
第1に、行動すべき時に、逡巡して時を逸してはならない。
第2に、様々な立場の人たちの連帯が大事。
第3に、紛争解決には、悪者探しよりも、異なる立場を超えて誰もが納得できる平和的な解決に全知全霊をふりしぼることが肝要。
いずれも深く納得できる指摘だった。
もう一人は、コスタリカのアリアス元大統領。
3回目の広島訪問だが、夫人とともに広島平和記念資料館を2時間かけて回られた。
その後の講演会でのアリアス氏の言葉を3つ紹介する。
第1に、広島は悲劇の地だが、多くの人の努力により今や世界的な平和の聖地となった。私も平和の巡礼者の一人として広島に来た。
第2に、(佐々木禎子さんの母親の「禎子は折鶴を折ったけれども死んでしまった、なんで折鶴は鳴いてくれなかったのか、なんで折鶴は羽ばたいてくれなかったのか。」との嘆きの言葉に言及しつつ、)現在、核兵器の非人道性に焦点を当てた核廃絶の運動が進んでいる。
鶴が鳴き、鶴が飛ぶ時がやってきた。
しかし、戦乱は続き、核兵器はまだ存在する。
目標は未達成だ。
目標達成まで、休んではならない、逡巡してはならない、歩みを止めてはならない。
断固として目標達成まで一緒に進んでいこう。
アリアス氏は、戦乱の渦中の中央アメリカに平和の枠組みを作ってノーベル平和賞を受賞した。
その後も尽力を重ねる平和の闘士の重みのある言葉だと感銘した。
第3に、(リーダーシップの重要性を強調し、)リーダーの責任は重い。
核廃絶に、オバマ大統領は最も重要な責任を担っている。
自分は、ノーベル平和賞受賞仲間として、オバマ大統領に一層の行動を促してきた。
また、オバマ大統領に対し、広島に来て謝罪をしろと伝えている。
彼が広島にくれば、弱腰大統領、謝罪をした大統領と批判、指弾されるだろうが、その批判は間違っている。
なぜならば、謝罪は過去に対してはできない、過去は変えられないからだ。
謝罪は未来に向けてするものだ。
私が広島に来て謝罪しろというのは、広島に来て被爆の実相、被爆者の平和への思いを受け止めた上で、核廃絶のために決意を持って発信し、行動しろという意味である。
今後もオバマ大統領にこのことを訴え続けるつもりだ。
アリアス氏のこの言葉を聴いて、私は、内容だけでなく表現にも感動した。
被爆者の方々の心情に深く思いをはせなければ発せられない表現だと思った。
私たち、広島平和文化センターも2015年、そして2020年への重要な節目の日々を被爆者の方々の深い思いを一瞬も忘れず、核兵器廃絶に向けて、皆様とともに努力を続けていきたい。
(本文は広島平和記念資料館メールマガジンNo.131(2014年6月2日配信)のコラム「ヒロシマの風」に掲載されたものです。)
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