和文機関紙「平和文化」No.209, 令和4年8月号

核兵器禁止条約第1回締約国会議に平和首長会議代表団を派遣

第1回締約国会議に出席して(所感)
松井市長
会長 松井 一實(まつ
い かずみ)
 核兵器禁止条約の初の締約国会議は、核兵器の非人道性を再確認するとともに、核兵器に依存した安全保障を批判し、条約への参加促進や核被害者援助など、条約の内容を実現する方策を盛り込んだ最終文書である「ウィーン宣言」と具体的な手順や行動を定めた「ウィーン行動計画」が採択されました。 とりわけ、核兵器禁止条約がNPT(核兵器不拡散条約)など既存の条約と対立するものではなく、これらを補完するものであることが強調されました。
 核兵器は、その使用によってもたらされる非人道性に加えて、取り扱う際の不確実性を踏まえると、それから甚大な被害を受けることはあっても、決して恩恵を受けることはない「絶対悪」であり、今後、核兵器による被害を受けることがないようにするための唯一の手段は廃絶しかないと、改めて感じました。
 核保有国が確実に核軍縮に取り組む環境をつくり出すことによって、人類と国の両方のための安全保障を推進するとともに、核兵器廃絶に向けた着実な取組を促していかなければなりません。
 そのための対応として、まずは非核保有国から核兵器禁止条約の批准国を増やすことが必要です。 それにより、核保有国が核兵器によって他国に影響力を及ぼすことを可能にしている現下の体制を変えていく環境づくりが進みます。 また、それによって、核保有国は、核兵器を保有するがゆえに発生するリスクを抱えながら、影響力が下がっていく核兵器を維持管理するための莫大(ばくだい)な費用負担が見合わなくなります。 これは、核保有国が核軍縮に取り組んでいくための動機付けにもなります。
 こうした考え方の下、平和首長会議は、核兵器禁止条約の普及や実効性確保に向けて市民社会の世論を醸成するため、条約推進国を始め、国連やNGO等と協力して、加盟都市と共に昨年7月に策定したPXビジョン(持続可能な世界に向けた平和的な変革のためのビジョン)に掲げる「平和文化の振興」に更に力を入れていきたいと考えています。
 平和首長会議は、今年6月、オーストリア・ウィーン市で開催された核兵器禁止条約第1回締約国会議と核兵器の人道的影響に関する国際会議へ松井一實会長(広島市長)、田上富久(たうえ とみひさ)副会長(長崎市長)、小泉崇(こいずみ たかし)事務総長(本財団理事長)を含む代表団を派遣し、国連・各国政府関係者等に、非人道的な結末をもたらす核兵器に対する強い懸念を訴えるとともに、核兵器廃絶に向けた議論を前進させるための努力を求めました。 また、平和首長会議及びICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の共同サイドイベントや、平和首長会議原爆ポスター展を開催し、核兵器のない平和な世界の実現に向けた気運を醸成しました。
 
 6月20日(月)
核兵器の人道的影響に関する国際会議の傍聴
 主催国オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク外務大臣や中満泉(なかみつ いずみ)国連事務次長兼軍縮担当上級代表の開会挨拶に続き、「核兵器の使用と核実験による被害者の証言」では、長崎の被爆三世で任意団体 KNOW NUKES TOKYO 共同代表の中村涼香(なかむら すずか)さんが、長崎で被爆した福島富子(ふくしま とみこ)さんの着物と帯を身に着けて登壇し、「被爆者の思いを継承し、同じ過ちを繰り返さないようにするかどうかは私たち若い世代に懸かっている」と訴えました。 また、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の木戸季市(きど すえいち)事務局長は、原爆被害や生涯続く被爆者の不安や苦しみについて訴え、「核兵器禁止条約は被爆者の願いそのもの」であると述べました。
タイ外務省国際機関局次長との面会
 松井会長は、締約国会議の会場内で平和首長会議原爆ポスター展を開催するに当たり、タイにスポンサーになっていただいたことへの謝意を伝えるとともに、核兵器禁止条約の批准国拡大に向けた市民社会の世論醸成のため、平和首長会議の加盟都市拡大に協力いただくよう依頼しました。 エクオン・クナチャロエン次長は、批准国拡大は重要課題の一つであるとの認識を示し、平和首長会議を始めとする市民社会と協力できることを嬉うれしく思うと述べられました。
包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)事務局長との面会
 ロバート・フロイド事務局長は、包括的核実験禁止条約(CTBT)は発効していないが、172か国が批准しており、同条約への署名が始まった1996年以降、通算2,000回を超えていた核実験が12回以下に激減し、全ての国に平和と安全保障をもたらしているとの見解を述べました。 松井会長は、同条約のように批准国を拡大することにより、核兵器禁止条約を実効性のあるものにするため、平和首長会議の加盟都市と共に、核兵器使用には非人道的な結末が待っているとの認識を広めていきたいと述べました。
 
 6月21日(火)
署名の目録を受け取る中満上級代表(右)
署名の目録を受け取る中満上級代表(右)
国連事務次長兼軍縮担当上級代表との面会・署名の手交
署名の目録を受け取る中満上級代表(右)
署名の目録を受け取る中満上級代表(右)
 中満上級代表は、厳しい国際情勢の中、締約国会議にオブザーバーを含め想定の倍以上の参加があることに触れ、国連の大きな課題である核兵器廃絶に向け、こうした様々な推進力を活用していきたいと述べました。 松井会長は、核兵器禁止条約の批准国拡大により、核兵器の使用面の非人道性と管理面の不確実性の認識を広め、核保有国の核軍縮に向けた動機付けにしたいと述べました。 また、同条約の早期締結を求める約29万筆分の署名の目録を手渡しました。
平和首長会議とICANの共同サイドイベントの開催
 100人を超える聴衆が集まり会場が満員となる中、「核兵器のない世界を目指す市民社会の声」と題したICANとの共同サイドイベントを開催しました。 小泉事務総長の進行の下、松井会長が開会挨拶を行った後、「被爆者からのメッセージ」として、長崎市議会の深堀義昭(ふかほり よしあき)議長は「長崎を最後の被爆地に」と訴え、日本被団協の家島昌志(いえしま まさし)代表理事は自身の経験を交えて放射線障害の恐ろしさを訴えました。 また、平和首長会議代表として、役員都市である英国・マンチェスター市のエドワード・ニューマン市議会議員が平和首長会議の概要や地方自治体としての取組を発表し、核兵器廃絶に取り組む若者代表として、ICANノルウェーのマヤ・トンプソンさんとKNOW NUKES TOKYOの中村さんが核兵器廃絶に向けた思いや取組を発表しました。
参加者からの質問に答える発表者
参加者からの質問に答える発表者
ICAN事務局長との面会
 松井会長は、共同サイドイベントの開催に対する謝意を伝えるとともに、核兵器禁止条約の普及や実効性確保に向けて協力して取り組みたいと述べました。 ベアトリス・フィン事務局長は、同イベントのタイトルにもなった「市民社会の声」について、ノルウェーでは市民の声が政府をオブザーバー参加に導いたことを例に、新しい動きをつくり出す動機付けになり得るとの認識を示し、地方自治体が自国政府へ同条約の締結を呼び掛ける「ICANシティーズ・アピール」のように、平和首長会議と協力して実施できる取組を考えたいと述べました。
 
松井会長によるスピーチ
松井会長によるスピーチ
核兵器禁止条約第1回締約国会議(一般討論)でのスピーチ
松井会長によるスピーチ
松井会長によるスピーチ
 松井会長は、田上副会長と共に平和首長会議の代表として発言し、ロシアによるウクライナ侵攻により生じた事態を解消するための方法が人類の築き上げてきた努力を無にするものではあってはならないと指摘した上で、国連を始め、各国や市民社会が一丸となり、核兵器禁止条約を実効性のあるものにするため、同条約を批准する国、とりわけ非核保有国を増やすことにより、核保有国に核兵器の非人道性と核兵器管理の不確実性に対する認識を深めさせることが急務であると訴えました。 さらに、平和首長会議や広島・長崎両市の取組を紹介し、来年広島で開催されるG7サミットへの期待を表明するとともに、核被害者援助の充実も含めて同条約の目標達成を呼び掛けました。
平和首長会議役員都市意見交換会及びヨーロッパ支部会議への出席
 広島・長崎両市を始め、ヨーロッパの役員都市等11都市が出席し、活発な議論を行いました。 ドイツ・ハノーバー市のトーマス・ヘルマン副市長はウクライナ情勢の緊迫化の下で同国内の加盟都市が急増していることなどを発表し、スペイン・グラノラーズ市のアルバ・バルヌセル市長はヨーロッパ支部長として更なる活動に取り組んでいきたいとの決意を表明しました。
 そして、今後の取組について意見交換を行った後、田上副会長は今年10月に広島で開催する平和首長会議総会においてこの議論の続きを行いたいと述べました。
意見交換会の様子
意見交換会の様子
 
 6月22日(水)
赤十字国際委員会(ICRC)軍備・敵対行為ユニット長との面会
 ローラン・ジゼール ユニット長は、核兵器廃絶に向けた平和首長会議とICRCの方針は一致しており、核兵器が使用されるリスクが高まる中、持続可能な努力をする必要があることから、若者の役割を共に追求していきたいと述べました。 松井会長は、「子どもたちによる“平和なまち”絵画コンテスト」を実施し、加盟都市の子どもたちに平和について考えながら絵を描いてもらっていることを紹介し、「平和文化」を特に若い世代に広げる取組に協力していただくよう依頼しました。
オーストラリア連邦下院議員との面会
 核の傘の下にありながらオブザーバー参加を決断した理由を松井会長から問われたスーザン・テンプルマン下院議員は、核兵器禁止条約への署名・批准は考えていないと前置きした上で、核兵器に対する懸念を締約国と共有しているが、会議での発言は行わず、この会議で得た情報を持ち帰り、今後の方針を検討するために参加していると述べました。
 
 6月23日(木)
在ウィーン国際機関メキシコ政府代表部特命全権大使との面会
 松井会長は、平和首長会議は市民社会レベルで被爆の実相を広める取組などを進めるので、メキシコには国レベルで、世界初の非核兵器地帯条約であるトラテロルコ条約を実現させた経験を生かし、CTBTを参考に核兵器禁止条約の批准国拡大に取り組んでいただきたいと要請しました。 ルイス・カンプザーノ大使は、同条約はCTBTの目標達成も補完するとの認識を示し、批准国拡大には平和首長会議を始めとする市民社会の関与が重要だとした上で、全ての国の批准を目指すと述べました。
ノルウェー外務省特命軍縮大使との面会
オスムンセン大使(左)との面会
オスムンセン大使(左)との面会
 ヨルン・オスムンセン大使は、ノルウェーは数十年前から優先順位の高い分野として核軍縮に取り組み、NPT第6条の核軍縮の誠実交渉義務の遂行によって、核兵器のない世界の実現を目指していると述べ、核兵器禁止条約の補完性が確認されることが重要であるとの見解を示しました。 また、同条約への署名・批准は難しいが、立場が異なっていても敵対せず、締約国会議に参加し建設的な対話をすることが大切だと述べました。 松井会長は、核兵器のない世界に向けては、NPTが入口となり、核兵器禁止条約が出口となる考えを伝え、NATO(北大西洋条約機構)に加盟し、核の傘の下にありながら、核兵器禁止条約が機能するように努められている同国のアプローチを支持すると述べました。
 
 6月21日(火)~6月23日(木)
 核兵器禁止条約第1回締約国会議の会場において、会議に参加した方々に被爆の実相についての理解を深めてもらうため、平和首長会議原爆ポスター展を開催しました。
原爆ポスター展の様子
原爆ポスター展の様子
(平和首長会議運営課)
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