和文機関紙「平和文化」No.205, 令和2年11月号

「原爆の絵」が完成

―高校生たちが被爆体験を絵に描く―
 本財団は、広島市立基町(もとまち)高等学校普通科創造表現コースの協力を得て、本財団被爆体験証言者等と同校生徒が協働し、被爆者の記憶に残る被爆時の光景を描いて当時の状況を伝える「原爆の絵」の制作に取り組んでいます。 昨年度から6人の被爆者と15人の生徒が制作を進め、このたび15点の絵画が完成しました。 平成19年度(2007年度)から制作を依頼しており、これまでに130人を超える生徒が携わり、152点もの貴重な絵を残しています。
 今年は新型コロナウイルス感染症の流行により学校が長期間の休校を余儀なくされるなどしたため、例年より完成が遅れましたが、7月20日(月)に基町高等学校で完成披露会が行われました。 マスクの着用やソーシャルディスタンスを徹底し、6人の被爆者と、絵を制作した生徒を始めとする創造表現コースの生徒のほか、本財団及び学校関係者が出席しました。
 この完成披露会で、被爆者の荒井覺(あらい さとる)さんの記憶に残る光景を描いた岡田友梨(おかだ ゆり)さん(2年生)がスピーチを行い、「広島の街に原爆が投下された直後の暗闇を描くにあたり、ススやチリが舞っている情景を描くのに苦労しましたが、荒井さんの話を何度も聞きながら自分なりに解釈して描くことができました」と話してくれました。 岡田さんは市外の小中学校に通い、平和学習にあまり取り組んだことがなかったそうです。 そのため、原爆が投下された時代背景を知り「原爆の絵」制作に役立てるため、映画『ひろしま』(1953年)を視聴したり、写真資料で当時のことを調べたりしました。 「原爆について深く知ること」が制作を通して何より大切なこであり、そうした「精神的につらい作業」を通して原爆というものに向き合わないといけない、ということを実感したそうです。 岡田さんは「私は荒井さんがあのときに感じた感情を代弁することはできませんが、制作をとおして自分が考えたこと、わかったことを少しでも多くの人に伝えていきたいです」と力強くスピーチを締めくくりました。
 このたびの制作においては、コロナ禍により生徒が被爆者の話を対面で聞くことができない中、電話で打ち合わせをしたり、絵の進捗状況を写真で伝えるなどしました。 また、制作時間を確保するために生徒が自宅にキャンバスを持ち帰ることさえありました。 生徒のこうした努力により完成した「原爆の絵」は、被爆体験をより深く理解してもらうため、証言者による被爆体験講話で活用するほか、絵の貸出や、マスコミ等への画像データの提供なども行い、原爆被害の実相を後世に継承するために将来にわたって役立てていきます。
「水を求めて」(下向萌加、笠岡貞江)

「水を求めて」
制作:下向萌加(しもむかい もえか)(基町高等学校普通科創造表現コース)、笠岡貞江(かさおか さだえ)(被爆体験証言者)

「少しでも遠くへ」(丸川裕世、川崎宏明)

「少しでも遠くへ」
制作:丸川裕世(まるかわ ゆうせい)(基町高等学校普通科創造表現コース)、川崎宏明(かわさき ひろあき)(被爆体験証言者)

「4人が座り酒を飲んでいた石段」(川﨑あすか、國分良德)

「4人が座り酒を飲んでいた石段」
制作:川﨑(かわさき)あすか(基町高等学校普通科創造表現コース)、國分良德(くにわけ よしのり)(被爆体験証言者)

「両手に瓶を持ち帰りながら見た原爆ドーム」(河﨑奏斗、國分良德)

「両手に瓶を持ち帰りながら見た原爆ドーム」
制作:河﨑奏斗(かわさき かなと)(基町高等学校普通科創造表現コース)、國分良德

「爆風で崩れ落ちた広島城天守閣」(河本羽菜日、國分良德)

「爆風で崩れ落ちた広島城天守閣」
制作:河本羽菜日(かわもと はなび)(基町高等学校普通科創造表現コース)、國分良德

「黒焦げの焼死体が寄りかかっていた石灯籠」(吉川春音、國分良德)

「黒焦げの焼死体が寄りかかっていた石灯籠」
制作:吉川春音(きっかわ はるね)(基町高等学校普通科創造表現コース)、國分良德

「闇市で生きる」(郷原綾乃、清水弘士)

「闇市で生きる」
制作:郷原綾乃(ごうばら あやの)(基町高等学校普通科創造表現コース)、清水弘士(しみず ひろし)(被爆体験証言者)

「原爆後遺症」(多賀心音、清水弘士)

「原爆後遺症」
制作:多賀心音(たが ここね)(基町高等学校普通科創造表現コース)、清水弘士

「合掌する母」(原田真日瑠、清水弘士)

「合掌する母」
制作:原田真日瑠(はらだ まひる)(基町高等学校普通科創造表現コース)、清水弘士

「火葬場と化した校庭」(岡部美遥、八幡照子)

「火葬場と化した校庭」
制作:岡部美遥(おかべ みはる)(基町高等学校普通科創造表現コース)、八幡照子(やはた てるこ)

「みんなで死のう、みんな一緒よ!!」(武原明歩、八幡照子)

「みんなで死のう、みんな一緒よ!!」
制作:武原明歩(たけはら あきほ)(基町高等学校普通科創造表現コース)、八幡照子

「正面から迫る負傷者たち」(長沖純、八幡照子)

「正面から迫る負傷者たち」
制作:長沖純(ながおき じゅん)(基町高等学校普通科創造表現コース)、八幡照子

「筵に巻かれた子どもの遺体を担ぐ男性」(福田葉月、八幡照子)

「筵(むしろ)に巻かれた子どもの遺体を担ぐ男性」
制作:福田葉月(ふくだ はづき)(基町高等学校普通科創造表現コース)、八幡照子

「負傷者であふれる教室」(森永琴音、八幡照子)

「負傷者であふれる教室」
制作:森永琴音(もりなが ことね)(基町高等学校普通科創造表現コース)、八幡照子

「暗闇の中の真赤な太陽」(岡田友梨、荒井覺)

「暗闇の中の真赤な太陽」
制作:岡田友梨(おかだ ゆり)(基町高等学校普通科創造表現コース)、荒井覺(あらい さとる)

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