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平和に向けての新たな地平=平和文化の振興

 2021年7月7日、従来の2020ビジョンに代わる「持続可能な世界に向けた平和的な変革のためのビジョン(略称PXビジョン)」がオンラインで開催された平和首長会議理事会において策定されました。 この日はいみじくも4年前に「核兵器禁止条約」が採択された日に当たります。

 この新ビジョンでは「平和文化の振興」という目標が新たに打ち出されました。 8月6日に松井(まつい)広島市長(平和首長会議会長)が行った平和宣言では、「為政者を選ぶ側の市民社会に平和を享受するための共通の価値観が生まれ、人間の暴力性を象徴する核兵器はいらないという声が市民社会の総意となれば、核のない世界に向けての歩みは確実なものになる」とし、「世界中で平和への思いを共有するための文化、『平和文化』を振興し、為政者の政策転換を促す環境づくりを進める」必要が述べられています。 ここに「平和文化の振興」という市民社会にとってより根源的な目標を含むものとなった新ビジョンの意義が端的に述べられていると思います。

 これまでビジョンの中心的な柱となっていた「核兵器のない世界の実現」は全人類に課せられた課題といえるものであり、また、第二の柱である「安全で活力のある都市の実現」は地域ごとに異なる多様な課題への取組を重視したものでした。 これに対し、新たな柱である「平和文化の振興」は、世界的な規模の平和という含意を持ちつつも、肝心なのは市民一人一人による日常生活の中での取組にあると思われます。 その意味で、「平和文化」は内容として多様であり、誰もが自らにとっての「平和文化」という独自性を持ちうるものです。 そして、その「振興」とは、今までとは違った何か特別なことをすることではありません。

 例えば、被爆者の方が「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」との思いから被爆体験を語ることは「平和文化の振興」に当たるでしょう。 また、より身近な例として、各自が自らの幸福、あるいは各家庭の平和や幸福を追求することも立派な「平和文化の振興」に当たるものだと思います。 なぜなら、そうした行為がすべからく「平和」に繋(つな)がっていくと思うからです。 このように「平和文化の振興」は、人種、性別、年齢などの別を問わず、どの都市の誰もが取り組める「平和活動」であることから、新ビジョンは「平和に向けての新たな地平を開く」ものであると考えます。

 平和首長会議は、1982年6月24日、当時の荒木(あらき)広島市長が国連軍縮特別総会で世界の都市に国境を超えて連帯し、共に核兵器廃絶への道を切り開こうと呼び掛けたことに端を発し、1985年に第1回世界平和連帯都市市長会議の開催として結実、明年で40周年の佳節を迎えます。 この機会を捉え、平和首長会議は核兵器のない平和な世界を目指し、「平和文化の振興」を大いに宣揚していくべきであると考えます。

平和首長会議事務総長
小 泉 崇

(本財団機関紙「平和文化」(No.207,令和3年9月号)掲載)
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