2010年NPT再検討会議後の広島と核廃絶
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広島市立大学 広島平和研究所 教授 水本 和実 (みずもと かずみ)
1957年広島市生まれ。1981年、東京大学法学部卒業。
朝日新聞社入社後、1989年、米国タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士課程卒業。
ロサンゼルス支局長を経て1998年、広島市立大学広島平和研空所助教授。
2010年から現職。専門は国際政治・核軍縮。
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5月にニューヨークで開催された、5年に1度の核不拡散条約(NPT)再検討会議は、核廃絶へ向けた64項目の行動計画を盛り込んだ最終文書を全会一致で採択し、閉幕しました。
今回の再検討会議は、核をめぐる今後の情勢を左右する重要な試金石だったと言えます。
なぜなら、2009年4月にオバマ米大統領がプラハ演説で「核のない世界」を訴えて以来、核廃絶への期待が国際的に高まる一方、
米国を含む核保有国がどこまで核廃絶に真剣に取り組む意思があるのか、依然として不透明だからです。
及第点の再検討会議
結論から申し上げるなら、今回の結果は、画期的といえるほどではありませんが、及第点はクリアできたと思います。
前回の再検討会議は、核軍縮に背を向けた米ブッシュ政権の姿勢を反映して、何ら成果なく終わりました。
しかし今回は、1995年と2000年の再検討会議で積み上げてきた、包括的核実験禁止条約(CTBT)の実現や、
核保有国による「核廃絶への明確な約束」など、核軍縮に関する決定を全て継承しつつ、核廃絶をめざすことが確認されました。
また「2014年のNPT準備会合で核保有国が核軍縮の進み具合を報告する」
「中東に非核・非大量破壊兵器地帯をつくるための国際会議を2012年に開催する」などの新たな措置が盛り込まれたほか、
核兵器禁止条約の意義についても、初めて言及されました。
一方、実施期限を明記した核削減計画を盛り込むという非核国の意向は、核保有国側の反対で退けられました。
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決裂回避の意義は大きい
とはいえ、最終文書を採択できた意味は小さくはありません。
今回の再検討会議には、ウラン濃縮活動を継続して国際社会から批判を浴びているイランのアフマディネジャド大統領が自ら参加して演説を行い、対米批判を繰り返しました。
イランがこうした強硬姿勢を続ければ会議は決裂の可能性もありましたが、アラブ諸国の団結により、イランも態度を軟化させました。
会議を決裂させてはならないと考えた良識派の声が上回ったのです。
広島はどう受け止めたか
今回の再検討会議の結果についての広島の受け止め方は、2通りあると思います。
1つは、まがりなりにも最終文書が採択されたことへの安堵感でしょう。
もう1つは、今回も核廃絶の達成期限を明記した実施計画が示されず、核廃絶実現が先送りされたことへの失望感です。
特に広島市長が会長を務める平和市長会議は、2020年までの核廃絶を明記した「ヒロシマ・ナガサキ議定書」の再検討会議での採択をめざし、市民の協力も得て大きなキャンペーンを展開しました。
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ニューヨークでの平和行進 (今年5月のNPT再検討会議時)
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再検討会議のNGOセッションで広島・長崎両市長が演説したほか、被爆者を含む数多くの広島・長崎市民がニューヨークを訪問し、多彩な活動を繰り広げました。
それだけに、複雑な思いを抱いている人も多いでしょう。
今後も一喜一憂せず行動を
しかし、各国代表に広島・長崎の切実な思いは伝わったと思います。
また被爆地の運動に日本の外務省はこれまで一定の距離を置いてきましたが、福山哲郎・外務副大臣は再検討会議での演説で「ヒロシマ・ナガサキ議定書」に言及し、市民社会の努力を積極的に評価しました。
市民の行動と各国政府の外交交渉は、もともと次元が異なります。
市民は理想を求めますが、外交は妥協なしには成立しません。そのどちらも重要です。
そのことをふまえ、これからも一喜一憂することなく、しかし決して諦めないで行動していくことが、広島・長崎に求められています。
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