広島市では、長崎市と共同で、ニューヨーク、ジュネーブ、ウィーンの国連施設に、被爆資料や写真パネルなどで構成する常設の原爆展を開設しています。
これらの施設には、核兵器のない平和な世界を実現する上で重要な役割を担う、各国政府や国際機関の指導者が数多く集まります。
また、世界各地から多くの観光客も訪れます。
そうした人々を対象に、国連施設では見学ツアーを実施しており、世界各地から年間約40万人が参加しています。
国際政治や国際世論に大きな影響を及ぼす場所で開設している原爆展を通して、より効果的に被爆の実相を伝えるためには、案内役のガイドやガイドツアー担当職員に被爆の実相を共有していただくことが不可欠です。
このため、平和記念資料館では、国連3施設の見学ツアーガイドとガイドツアー担当職員計6人を広島に招聘
(しょうへい)し、被爆の実相を理解するための「国連見学ツアーガイドのヒロシマ研修」を昨年12月2日から5日までの4日間、初めて実施しました。
1日目
研修冒頭、志賀賢治
(しが けんじ)平和記念資料館長が「ガイドツアーを通して、核兵器に襲われた人間は何を奪われ、核兵器を使うことによって何がもたらされるのか、多くの人々に伝えていただきたい」と述べ、続けて被爆の実相の概要の講義を行いました。
午後には、ヒロシマ ピース ボランティアの原田健一
(はらだ けんいち)さんが案内役となり、平和記念公園内の慰霊碑や原爆ドーム内などを見学しました。
その後、資料館の展示を見学し、原爆の犠牲となった人々の遺品に接し、核兵器の非人道性を理解しました。
2日目
研修受講者は集中的に講義を受けました。
内容は、原爆の人体への影響(講師・広島大学 神谷研二
(かみや けんじ)副学長)、 米国における原爆開発から投下までの経緯や外交上の思惑について(講師・大阪大学大学院 山田康博
(やまだ やすひろ)教授)、 核兵器規制をめぐる国際情勢や国際条約の変遷(講師・広島市立大学広島平和研究所 福井康人
(ふくい やすひと)准教授)、 本財団の委嘱被爆体験証言者である寺本貴司
(てらもと たかし)氏の講話などです。
3日目
午前、受講者はボランティアの八木朱實
(やぎ あけみ)さんの案内の下、宮島を見学し、広島の歴史や日本の伝統・文化に触れました。
その後、松井一實
(まつい かずみ)広島市長を表敬訪問しました。
松井市長は、受講者に日頃の原爆展での案内に対する謝辞を述べ、「原爆が人々にもたらした痛みを十分理解いただき、核兵器の非人道性を、理論と感情の両面から共有していただきたい」と挨拶しました。
その後、放射線影響研究所を訪れ、所内を見学し、丹羽太貫
(にわ おおつら)理事長から原爆放射線の健康影響の調査・研究と、その社会的影響などについての講義を受けました。
4日目
最終日は、広島市立大学広島平和研究所のロバート・ジェイコブズ教授が、米国における原爆投下の受け止め方について講義を行いました。
続いて、本財団の委嘱被爆体験証言者である梶本淑子
(かじもと よしこ)氏の講話を聴きました。
午後には、国連訓練調査研究所広島事務所を訪問し、担当職員から被爆樹木などについての取組の説明を受けました。
最後に研修の総括として、振り返りのディスカッションを行いました。
ここでは、研修で得た知識や経験を今後の職務にどう活かすかや、国連施設での見学ツアー参加者にどう還元するかについて、各受講者が意見交換しました。
受講者からは、研修の感想として「被爆の実相について、我々の根底にある認識や考え方を改めることができた」、「被爆体験講話は、研修の中で、最も記憶に残る部分だ。お2人とも、恐ろしい被爆体験やその後の人生について、とても鮮明に、詳細に語ってくださった。当時の惨状がよく伝わった」などといった声が寄せられました。
また、受講者の帰国後、各国連施設から、 「核軍縮をテーマにしたツアーを開発したい」、 「ツアーの視覚資料に原爆の絵を採り入れる」、 「新たな展示を検討する」 といった連絡があり、国連は、研修を通じて、核兵器の非人道性をより一層伝える必要性を再認識したものと考えています。
この研修は、今後も継続して実施する予定で、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けて、世界レベルで「ヒロシマの心」の発信力の強化を図ります。