和文機関紙「平和文化」No.204, 令和2年7月号

被爆75年にあたって 財団が目指すもの

(公財)広島平和文化センター
会長 松井 一實
松井市長

 75年前、一発の原子爆弾により広島の街は一瞬にして廃墟(はいきょ)と化し、多くの人々の尊い命が奪われました。 今日では、広島の街は見事な復興を遂げ、市民は豊かな暮らしができるようになりました。 一方で、放射線の後障害などで今も苦しんでいる被爆者が数多くおられます。 そして「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」と訴え続けながら、自らの体験や平和へのメッセージを若い世代へ語り継いでおられます。 被爆者の平均年齢は83歳を超えており、被爆体験の継承を今後どのように進めていくかが大きな課題となりつつあります。
 
被爆体験の継承に尽力
 このため、本財団では広島市と協働して被爆者のメッセージを次世代に継承するための様々な取組を実施しています。
 平和記念資料館では、遺品だけでなく遺影や遺族の手記をあわせて展示することにより、御覧になる方が被爆者や遺族一人一人の苦しみ・悲しみに向き合えるようにしていることに加え、放射線による被害を展示することにより、核兵器の非人道性を訴えています。 さらに、被爆者の体験や平和への思いを受け継ぎ、被爆者に代わってそれらを伝える被爆体験伝承者を育成し、国内だけでなく海外へも派遣しているほか、被爆者がその体験を語る被爆証言ビデオの収録や被爆体験記の収集についても、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館と連携しながら取り組んでいます。
 今後とも、こうしたバーチャルな取組も充実させながら、次代を担う若い世代の人々にも被爆者のメッセージを受け止めていただけるよう、活動を進めていきたいと考えています。
 
市民社会の総意で核兵器廃絶を目指す
 今、世界では、台頭している自国第一主義を始め、排他的・対立的な発想に基づく動きが国家間の緊張を高め、核兵器を巡る国際情勢は非常に不安定かつ不透明な状況です。 現在、世界の核保有国は約1万3千発もの核兵器を保有し、意図せずとも事故、テロなどにより使用される可能性もあり、被爆者を含む市民の訴えとは程遠い状況と言わざるをえません。 国家間における核抑止に依存する現状を打破し、核軍縮に向けて軌道修正するためには、各国の為政者が勇気を持って政策転換を行えるようにするための環境づくり、すなわち市民社会の共通の価値観の形成を進めることが必要です。
 本財団は、全人類的な視野に立って平和思想の普及と国際相互理解・協力の増進を図り、世界平和の推進に寄与することを目的としています。 また、私が会長を務め、本財団が事務局機能を担う平和首長会議は、市民の安心・安全な生活の確保こそが市民社会の共通の価値観(真なる願い)であることを踏まえ、その願いを叶(かな)えるという使命を担う自治体首長からなる超党派の組織であり、本財団と理念を共有するものです。 現在164の国・地域にある7,900を超える都市が加盟するこの平和首長会議というネットワークを活用して被爆の実相を伝え、被爆者の思いに共感する方々を増やすことにより、核兵器のない世界こそが人類が今後目指すべき平和な世界であることを世界の市民社会の総意とするための取組を進めています。 市民社会の総意は、各国の為政者が核兵器廃絶に大きく歩みを進められるようにする環境づくりの要となるからです。
 グテーレス国連事務総長は「核兵器の脅威を無くす唯一の方法は、核兵器の廃絶以外にはありません。」と訴えています。 こうした志を同じくする国連とも連携を強め、平和首長会議の活動の更なる充実を図って参ります。
 
国際交流の促進と平和文化の醸成で平和な社会の実現へ
国際フェスタ2019生け花体験

「国際フェスタ2019」の日本文化体験コーナーで生け花を楽しむ外国人参加者

 世界は今、新型コロナウイルス禍に見舞われ、国際的な移動が制限されるなど国際交流・協力活動も影響を受けています。 しかし、お互いの宗教や異文化に対する相互理解を深めることが平和な世界を創るための第一歩であり、人々の間に平和文化を醸成することが平和な社会の確かな基盤造りとなると考えています。 このため本財団では、国際平和文化都市としての特性を生かして、国際交流や相互協力、多文化共生に注力するとともに、外国人のための情報提供、生活相談を行うなど、国際交流の促進と市民の国際平和意識の高揚に積極的に取り組んでいきたいと考えています。
 こうした本財団の活動に対し、引き続き皆様のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願いします。
(令和2年7月)
 
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