広島平和記念資料館では、被爆者が当時の情景を思い出して制作した「市民が描いた原爆の絵」約5,000枚を所蔵しています。
その原画を展示している「絵筆に込めて」のコーナーでは、劣化を防ぐため半年ごとに入れ替えを行っており、9月3日からは「原爆と路面電車」をテーマとした6点の原画を新たに展示しています。
現在も広島の街では身近な公共交通機関・路面電車。
原爆が投下された午前8時15分は、ちょうど通勤・通学時間で電車に乗っている人もおり、大勢の人が被爆し、亡くなりました。
被爆直後の乗客の混乱ぶりや被災した車両に残ったままの黒焦げの遺体、軌道上にできた粗末な救護所に横たわる被災者など、その異様な光景は生き残った人の脳裏に焼き付き、数多くの「原爆の絵」に描かれています。
今回ご紹介する絵では、原爆の爆風で吹き飛ばされた女性が、髪の毛が路面電車の架線に巻き付いたために宙づりになっている様子を描いています。
作者の西田輝美さん(当時33歳)は建物疎開に出動中だった同僚たちの救援のため被爆直後から燃え盛る市街地に入り、筆舌に尽くしがたい悲惨な光景をいくつも目撃しました。
西田さんは後年、手記の中で、「市内の生地獄 文筆には現せない凄惨さで憎しみと怒りをどうすることもできなかった。」とその日のことを振り返っています。
西田さんが仕上げた「原爆の絵」は、この絵を含め十数枚に上り、それらには「拙筆ながら入魂の絵として供覧を乞う」という言葉を添えておられています。
原爆がいかに人々の生活を破壊したか、都市に核兵器が使用されたらどのような状況になるのか、原爆で被災した路面電車に関する絵を通して知っていただけたらと思います。
(展示は令和7年(2025年)2月17日まで。)
(平和記念資料館 学芸課)