広島平和記念資料館では、被爆者が当時の情景を思い出して描いた「市民が描いた原爆の絵」約5,000枚を所蔵しています。
本館「絵筆に込めて」のコーナーでは、その原画を展示しています。
劣化を防ぐため半年ごとに入れ替えを行っており、本年9月2日からは「川の惨状」をテーマに6枚の絵を展示しています。
川と一口に言っても、川の中だけでなく、川縁や土手まで含め、悲惨な状況が展開されていました。
水を求めて川へやってきた人たち、川の中で助けを求める人たち、川の土手に並べられた半死半生の負傷者たち、川を埋め尽くす死体……。
流れから取り残され幾日たっても川に浮いている死体もありました。
川の中の死体は、救援に入った人たちの手により川から引き上げられ、彼らの手で荼毘
(だび)に付され、親族らが遺骨や遺品を探して訪れました。
この絵は被爆から3日後頃、爆心地から1,470メートルの三篠橋付近の情景を描いたものです。
橋の下のよどみに、流れから取り残され、いくつもの死体がたまって浮いている様子が描き出されています。
作者・前田正一
(まえだ まさかず)さん(当時32歳)の言葉を引用します。
「らんかんが落ちた/三笹[篠]
(みささ)橋の下 淀みにたまった遺体/約二十体 三十年後も印象に残る。」
三十年後とは、前田さんが絵を描いた年です。
絵の中で、死体に向かって合掌している人物が前田さんなのでしょう。
人の死に際し、悼む気持ちが絵に表されています。
現在も広島は川の街で、街の中を大きな川が6本流れています。
被爆直後、これらの川には様々な人たちの生と死の姿がありました。
これらの絵はその姿を今に伝えています。
原爆がいかに人々の生活を破壊したか、都市に核兵器が使用されたらどのような状況になるのか、原爆被災直後の川の惨状の絵を通して知っていただけたらと思います。
(平和記念資料館 学芸展示課)