和文機関紙「平和文化」No.223, 令和8年3月号

核兵器が子どもたちに与える影響

ティム・ライト

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN) 条約コーディネーター
ティム・ライト

ティム・ライト

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN) 条約コーディネーター

 2025年3月に採択された核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会議の宣言において、子どもたちが「特有の脆弱(ぜいじゃく)性」を有するがゆえに、核兵器が「特別に深刻な影響」を与えることを示す研究成果が着実に積み重なってきていると指摘されています。
 今日、都市に対する核攻撃が行われた場合、最も深刻な被害を受けるのは子どもたちであるという事実は、核兵器がもたらす世界的な脅威の高まりを論じるうえで中心に据えられるべきであり、核兵器廃絶に向けて力を合わせて行動するための原動力とならなければなりません。
 80年前に行われた米国による広島・長崎への原子爆弾投下では、公的な推計によれば、3万8,000人を超える子どもが命を奪われ、さらに数え切れないほど多くの子どもたちが、深刻な身体的傷跡や心理的トラウマを負いました。
 広島平和記念資料館に常設展示されている、銕谷伸一(てつたに しんいち)さん(当時3歳)の焼けた三輪車は、子どもたちに加えられた被害を象徴する存在として、広く知られています。 被爆当時、伸一さんは三輪車に乗っていて重傷を負い、数時間後に亡くなりました。 姉の路子(みちこ)さんと洋子(ようこ)さんも、同じく命を落としています。
 「子どもたちが二度とこんな目に遭うことがあってはいけません。」
 伸一さんの父、信男(のぶお)さんは、後年、そう振り返っています。
 「どうか、子どもたちが心ゆくまで遊ぶことのできる、平和な世界をつくるために力を尽くしてください。」
 科学的な研究により、核攻撃が行われた場合、子どもたちは大人に比べて死亡する可能性が高いことが明らかになっています。 子どもは皮膚が薄く繊細であるため熱傷によって死亡しやすく、また身体が相対的に脆弱であることから、爆風による負傷によって命を落とす危険も大きくなります。 さらに、細胞の成長や分裂が活発であるため、急性放射線症によって死亡する可能性も高まります。
 また、倒壊して炎上する建物から自力で逃げ出したり、攻撃を受けた後に生存の可能性を高めるための行動を取ったりする能力も、子どもは大人に比べて低いとされています。
 長期的には、放射線による細胞損傷の遅発的な影響により、子どもたちはがんなどの疾病を発症しやすくなります。 また、困窮や精神的障害に苦しむ可能性も高く、その結果として、自殺に至るリスクも高まります。
 さらに、被爆時に母親の胎内にいた子どもたちは、出生直後や幼少期に死亡するリスクが高まるほか、発達段階にある脳が放射線に対して脆弱であることから知的障害を負う可能性、甲状腺機能の低下による成長障害、そして小児期や成人後のがんやその他の疾病を発症するリスクも高くなります。
 こうした恐るべき現実は、核兵器を保有している国々、そして軍事同盟のもとで核兵器の保有や使用の可能性を支持している国々 ―日本を含めて― の政策決定に、深い示唆を与えるものでなければなりません。
 この2年間、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、広島・長崎で被爆した子どもたち、また世界各地に存在する核実験場の風下や川の下流域に暮らす子どもたちが被ってきた特有かつ特別な被害に光を当てるため、粘り強い取組を続けてきました。
 2024年には、この問題に関する詳細な報告書を公表し、2025年には、子ども平和メモリアル(Children's Peace Memorial)を立ち上げました。 これは、広島と長崎で命を奪われた400人を超える子どもたちを紹介するウェブサイトで、彼らの短い生涯や苦痛に満ちた最期、そして遺された家族の深い悲しみが、胸を打つ形で紹介されています。
 このメモリアルの制作は、13歳で広島で被爆し生き延びた、サーロー節子(せつこ)さんの生涯にわたる活動に着想を得たものです。 彼女は、多くの講演の中で、自身が通っていた学校で命を落とした生徒や教師の名前が記された大きな黄色い横断幕を掲げます。 そうすることで、死と破壊がもたらした被害の規模を聴衆が実感することができると、彼女は語っています。
 「これをご覧ください。ここに記された一つひとつの名前は、誰かに愛され、あの日の朝8時15分まで、それぞれの人生を生きていた、実在した人間のものであることを感じ、想像してほしいのです。」と、彼女は訴えます。
 広島で命を奪われた子どもたちの物語を伝える最初期の取り組みの一つが、1954年に刊行された『追憶』です。 この書籍には、犠牲となった広島第一中学校(現広島国泰寺(こくたいじ)高校)の男子生徒たちを追悼する86編が集められており、その多くの文章は、子どもを失った親たちによって書かれました。
 この追悼文集の序文で、広島一中遺族会長の秋田正之(あきた まさゆき)さんは次のように記しています。
 「この素朴で拙ない父兄、母姉たちの文章が、一人でも多くの人の目に触れ、人類の惨劇の再現を防ぐ上で、たとえわずかなりとも役立つならば、遺族の一人としてこれにまさる喜びはない。」
 私たちが、オンライン上のメモリアルを通じて、子どもたちの物語を改めて伝えることを選んだのも、まさにこの思いに基づくものです。 私たちは、このメモリアルが、核兵器がもたらす深刻で増大する脅威に世界の人々が目を向け、年齢を問わず、誰一人として同じ運命をたどることがないようにする一助となることを願っています。
 言うまでもなく、それを保証できるのは、核兵器の全面的な廃絶のみです。 私たちは、核兵器禁止条約(TPNW)こそが、その目標に至る最も有望な道筋を示していると信じています。 この条約は、核兵器を包括的に禁止するだけでなく、検証可能かつ不可逆的な廃絶の枠組みと、核兵器の使用や実験による被害者を支援するための枠組みをも定めています。
 すでに世界の過半数の国々が、この条約に締約国または署名国として参加しており、さらに多くの国々が参加を検討しています。 こうした一つ一つの署名や批准が、最悪の大量破壊兵器に対する国際的規範を強化し、核兵器廃絶に向けた圧力と勢いを生み出しています。
 国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、次のように述べています。
 「核兵器は、人類がつくり出したものの中で最も破壊的な力です。核兵器は安全を保障するものではなく、もたらすのは殺戮(さつりく)と混乱だけです。核兵器を廃絶することは、私たちが将来世代に残すことのできる、最大の贈り物なのです。」
(2026年1月)
〔ティム・ライト〕
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の条約コーディネーターで、「子ども平和メモリアル」の発案者です。
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