中学生の平和意識 —体験継承・社会参画に向けて
村上 登司文
京都教育大学 名誉教授
2020年代に入り、戦争体験者が急減する過渡期を迎え、SNSによる情報化や国際秩序の不安定化が一気に進み、平和教育は新たな課題に直面しています。
現在の小中高校生にとって、戦争体験者は曾祖父母の世代となっています。
戦争体験者からは、その子は第2世代、孫は第3世代、ひ孫は第4世代にあたり、学校での平和教育は、すでに戦争体験第4世代に対するものとなりました。
筆者は、過去28年間にわたり、東京、京都、広島、那覇の4都市で中学2年生(1000人規模)に対して4回調査を実施しました。
調査期間の28年の間、中学生は平和主義的な意識を継続的に保持しています。
しかし、2025年調査では生徒の平和主義的な意識が弱くなる傾向が見られました。
その一方で、広島・長崎の被爆体験を世界に継承することを大切と思う割合が、次第に増えています。
正義の戦争論に反対(「反対」+「少し反対」)と答えた生徒は、1997年調査では57.3%いましたが、2025年調査では47.7%となりました。
正義の戦争論は中学生たちに支持されていないが、調査期間の28年の間に、正義の戦争論に反対する生徒は減っています。
表1の得点を見ていくと、-0.83から -0.49へと上昇し、2025年調査での上昇が目立ちます。2025年調査では正義の戦争論に対して「反対」の割合と、どのような戦争もすべきでないと「思う」割合とが、同時に減少しており、平和主義的な意識の低下が明らかとなりました。
中学生の戦争観は、出会う大人たちの戦争観や接する情報に影響されています。
影響を及ぼしたと思われる世界情勢として、2022年からのウクライナ戦争があり、大国ロシアによる侵略に対してウクライナが防衛するという位置づけが広く共有されました。
ヨーロッパや中東で戦争が起こり、国際状況が大きく悪化する中で、中学生の平和意識は変化しています。
| 表1 中学2年生の平和意識得点の変化 |
| 質 問 |
1997年調査 |
2006年調査 |
2016年調査 |
2025年調査 |
| ① 正義の戦争論について |
- 0.83 |
- 0.77 |
- 0.72 |
- 0.49 |
| ② 被爆体験継承について |
1.34 |
1.45 |
1.59 |
1.65 |
| 注:質問① |
「戦争の中には侵略戦争のように悪い戦争と、国を守るよい戦争(正義の戦争)があるという意見を、あなたはどう思いますか」に対する生徒の回答を、賛成2点、少し賛成1点、少し反対 -1点、反対 -2点、どちらとも言えない0点、により得点化した。 |
| 質問② |
「あなたは広島や長崎の『被爆体験』を世界の人々に伝えることを大切と思いますか」に対する生徒の回答を、思う2点、少し思う1点、あまり思わない -1点、思わない -2点、どちらとも言えない0点、により得点化した。 |
その一方で、被爆体験の継承の重要性が共有されています。
中学生調査では、被爆体験を世界の人々に伝えることが大切と「思う」生徒の割合は、1997年調査の時点で既に66.6%ありました。
2016年調査では前回調査より増加し、2025年調査では77.7%に達しました。
表1の得点では1.34から1.65となり、28年間で着実に増加しています。
調査地の4都市のいずれでも、被爆体験継承の重要性が生徒たちに浸透しており、若い世代に被爆体験の継承意識が形成されています。
広島の生徒は、他の調査地と比べて、「核兵器の存在」を平和でない理由として多く挙げています。
また、広島の生徒は「正義の戦争論」を認めない傾向があると言えます。
戦争体験第4世代に対する平和教育の枠組として、歴史的体験の継承と主体的な社会参画を統合する取組として「体験継承・社会参画モデル」を提示できます。
体験継承・社会参画モデルとは、戦争体験の証言継承を市民的参加と接続し、記憶の継承を能動的な社会参加へと転化させる平和教育モデルです。
この平和教育では、講話型のように語り手から一方的に伝えるのではなく、話し手と聞き手の双方向で対話を進め、課題解決を考え、平和創造が目指されます。
近年広島市が行っている若者たちの同世代による交流を通じた平和学習は、体験継承・社会参画モデルに沿ったものです。
この体験継承・社会参画モデルでは、戦争(原爆被爆体験や、各地域の戦争体験)についての教育だけではなく、平和な社会を形成する力を育てようとします。
つまり、生徒たちは、戦争被害者の声を通して、戦争の実相や平和への思いに触れ、平和を遠い理想としてではなく、平和を創り出す方法を考えます。
平和教育のこうした体験的アプローチにより、共感と価値判断力を育み、平和創造に向けて、自分事として社会参画に関わります。
中学生への意識調査のデータから、被爆体験を伝えようとする継承意識の広がりを確認できました。
また、広島市における近年の平和学習の実践において、対話・交流・発信といった取組の広がりが見られます。
地域社会と学校教育が協働する平和教育は、広島市や長崎市だけでなく、体験継承・社会参画モデルとして、世界に通用する平和教育の普遍的なモデルとなることが期待されます。
(2026年8月)
〔むらかみ としふみ〕
広島県生まれ。ブラッドフォード大学平和学MA。京都教育大学名誉教授。現在、日本平和教育学会会長。
著書に、『平和教育研究』(明石書店)、「戦後80年目における中学生の平和意識」『京都教育大学紀要』など。