和文機関紙「平和文化」No.205, 令和2年11月号

被爆75年 平和記念式典

―原子爆弾投下によって「75年間は草木も生えぬ」と言われた広島は今、復興を遂げて、世界中から多くの人々が訪れる平和を象徴する都市になっています―
 被爆から75年目の8月6日(木)、広島市の平和記念公園で、市主催の平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)が行われ、被爆者や遺族、来賓など約800人が犠牲者の冥福と世界恒久平和を祈りました。
 今年の式典は、新型コロナウイルス感染防止のため、参列者の席は2mの間隔を空けて配置され、一般参列席は設けず、さらに、密集を防ぐため式典の前後を含めて一定時間公園内への入場規制を行うエリアを拡大して開催されました。
 式典は午前8時に始まり、最初に松井一實(まつい かずみ)広島市長と遺族代表2人が、この1年間に亡くなられたことが確認された4,943人の氏名が記帳された2冊の原爆死没者名簿を、原爆死没者慰霊碑の中の奉安箱に奉納しました。 これで名簿登録者総数は324,129人、名簿総数は119冊となりました。
 続いて山田春男(やまだ はるお)広島市議会議長の式辞、各代表による献花の後、原爆が投下された8時15分に、遺族代表の松木俊伸(まつき としのぶ)さんと、こども代表の竹宮未菜海(たけみや みなみ)さんが平和の鐘をつき、参列者全員が1分間の黙とうを捧(ささ)げました。
 この後、松井市長が平和宣言を行いました。 市長は、今、人類が立ち向かっている新型コロナウイルスという新たな脅威は、悲惨な過去の経験を反面教師にすることで乗り越えられるのではないかと述べ、100年前のスペイン風邪の流行や、第一次、二次の世界大戦を例に挙げて、市民社会は、自国第一主義に拠ることなく、「連帯」して脅威に立ち向かわなければならないと訴えました。 そして、当時13歳だった被爆者の男性の「自分のこと、あるいは自国のことばかり考えるから争いになるのです。」という訴えや、昨年11月に被爆地を訪れ、「思い出し、ともに歩み、守る。この三つは倫理的命令です。」と発信されたローマ教皇の力強いメッセージ、国連難民高等弁務官として難民対策に情熱を注がれた緒方貞子(おがた さだこ)氏の「大切なのは苦しむ人々の命を救うこと。自分の国だけの平和はありえない。世界はつながっているのだから。」という実体験からの言葉を紹介し、これらの言葉は、人類の脅威に対しては、悲惨な過去を繰り返さないように「連帯」して立ち向かうべきであることを示唆していると述べました。
令和2年平和宣言

平和宣言を行う松井市長

 また、NPT(核兵器不拡散条約)と核兵器禁止条約は、ともに核兵器廃絶に不可欠な条約であり、次世代に確実に「継続」すべき枠組みであるにもかかわらず、その動向が不透明となっているとし、世界の指導者に、広島を訪れ、被爆の実相を深く理解し、来年開催されるNPT再検討会議おいて、核軍縮を誠実に交渉する義務を踏まえつつ、建設的対話を「継続」し、核兵器に頼らない安全保障体制の構築に向け、全力を尽くすよう求めました。
 さらに、日本政府には、核兵器禁止条約への署名・批准を求める被爆者の思いを誠実に受け止めて同条約の締約国になり、唯一の戦争被爆国として、世界中の人々が被爆地ヒロシマの心に共感し「連帯」するよう訴えていくことや、平均年齢が83歳を超えた被爆者を始め、心身に悪影響を及ぼす放射線により生活面で様々な苦しみを抱える多くの人々の苦悩に寄り添い、その支援策を充実するとともに、「黒い雨降雨地域」の拡大に向けた政治判断を、改めて強く求めました。
 平和宣言の後、こども代表の大森駿佑(おおもり しゅんすけ)君と長倉菜摘(ながくら なつみ)さんが、当たり前だと思っていた日常が新型コロナウイルスの脅威によって奪われ、決して当たり前ではないことに気付かされた経験から、昭和20年(1945年)8月6日、一発の原子爆弾により奪われた当時の市民の日常に思いをはせ、「私たちは、互いに認め合う優しい心をもち続けます。私たちは、相手の思いに寄り添い、笑顔で暮らせる平和な未来を築きます。被爆地広島で育つ私たちは、当時の人々があきらめずつないでくださった希望を未来へとつないでいきます。」と「平和への誓い」を読み上げました。
 続く「あいさつ」の中で、安倍晋三(あべ しんぞう)内閣総理大臣は、現在のように、厳しい安全保障環境や、核軍縮をめぐる国家間の立場の隔たりがある中では、各国が相互の関与や対話を通じて不信感を取り除き、共通の基盤の形成に向けた努力を重ねることが必要だと述べ、また、今年発効50周年を迎えたNPTが国際的な核軍縮・不拡散体制を支える役割を果たし続けるためには、来るべきNPT運用検討会議を有意義な成果を収めるものとすることが重要だと述べました。 そして、日本政府としては、結束した取組の継続を各国に働きかけ、核軍縮に関する「賢人会議」の議論の成果を活用しながら、引き続き、積極的に貢献していく考えを示しました。
 今年、式典会場では、各国の首脳や代表、自治体首長、また国際機関の事務局長など17人から寄せられたビデオメッセージが、大型スクリーンで放映されました。
 このメッセージの中で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、現在、核兵器廃絶を取り巻く国際情勢が厳しい状況にあるとの認識を示し、完全な核兵器廃絶につながる共通のビジョンと道程に戻るよう国連加盟国に繰り返し呼びかけるとしたうえで、核保有国については、今こそ対話と信頼醸成、核兵力の削減、最大限の自己抑制が必要な時だと訴えました。 そして、来年のNPT運用検討会議において、締約国はこの共通のビジョンに立ち返る機会があると述べるとともに、軍縮体制の更なる柱である核兵器禁止条約の発効への期待を表明しました。 また、若者たちは、市民社会と一丸となって、軍縮という理念のために自分たちの力を発揮できることを幾度も証明してきたと述べ、彼らの考えに耳を傾け、彼らの声が聞かれる場を作るべきだとの考えを示しました。
 式典には26都道府県の遺族代表の他、核兵器国のアメリカ、イギリス、フランス、ロシアを含む83か国と欧州連合(EU)の大使や代表が参列しました。
 式典の様子はインターネットでライブ中継されました。 式典で読み上げられた「平和宣言」、「平和への誓い」の全文は、広島市ホームページの「原爆・平和」→「平和記念式典・平和宣言等」→「平和宣言」から閲覧できます。 「平和宣言」は9言語(アラビア語、中国語、英語、フランス語、ドイツ語、ハングル、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語)の外国語版も閲覧できます。
(総 務 課)
 
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