2023年の春、G7広島サミットを契機に開催された、核兵器廃絶と世界平和の構築に向けた実践的ス
テップに取り組む、若者達による
3つのイベントに参加する機会を得ました。
世界の若者が、知性、優しさ、エネルギーを注いで
21世紀の厄介な課題に取り組む姿に、私は大きな希望を感じました。
それぞれのイベントは、様々な若者コミュニティのメンバーによる、論点や活動がよく考えられたユニークなものでしたが、前の世代から引き継がれ、未だ解決をみない核問題に取り組むという意味では、同じ性格のものとも言えます。
壇上のG7各国の若者代表と筆者 (提供 ICAN)
《G7広島サミットジュニア会議》
3月下旬の3日間、G7各国に
ルーツを持つ日本在住の高校生
24名が広島に集いました。
「平和」、「持続可能性」、「多様性」をテーマに3グループに分かれました。
各グループでは、活発に意見を交わす中で合意点を見出し、一つの文書にまとめるというプロセスを重ねていきました。
また、被爆の実相について学ぶ平和プログラムの後に、それぞれのテーマに沿った場所を訪問しました。
それを踏まえ、さらに議論を進め、自分達が練り上げた成果文書を、最終日に、彼ら全員で堂々と読み上げました。
この文書は、認識する課題、推奨する行動、今後の行動や取組に対するコミットメントの3つのセクションから構成されています。
岸田(きしだ)首相に手渡された「広島から世界へ」と題されたこの文書の冒頭には、「このような悲劇が決して繰り返されないようにするために、広島の歴史と人類への影響を誰もが真に理解するようにしていく必要があります。被爆者の経験を受けとめることによってのみ、私たちは平和な未来を共に築く方法を十分理解することができるのです。」と記されています。
すなわち、これは、彼らの目線から、“私たちが今日どこに立ち、私たちみんなの未来をどのように展望しているか”を表しているものと思います。
《国際青少年パグウォッシュによる対話イベント》
4月25日、国際青少年パグ
ウォッシュ(ISYP)が開催したオンラインイベントに招かれました。
ISYPの土台であるパグウォッシュ会議は、最初の会議が1958年にカナダのノバスコシア州パグウォッシュで開催されたのが名称の由来です。
当時科学界をも分断していた冷戦に対抗して、世界中の科学者に科学と世界情勢について共に話し合おうと呼びかけ、世界平和に向けた活動を開始しました。
ISYPは、1970年代に活動を開始した、世界平和、特に核兵器の廃絶に向けて活動する多くの国々の大学生をメンバーとする、ドイツに拠点を置く青年組織です。
この対話イベントは、私の新しい本「グローバルヒバクシャ」(2022年イェール大学出版社)が提起した、「核兵器や核テクノロジーがもたらす非人道的な結末について対話する機会」として、トルコやナイジェリアのISYPリーダーによって企画され、ヨーロッパ、中東、アフリカ、アジア各地から若者が参加しました。
彼らは平和、核廃絶に関する問題、環境問題について非常によく学び、広く関与していました。
多くのメンバーは、ロシアによるウクライナとの戦争における核兵器使用の可能性やドイツの原子炉停止による再生可能エネルギーへの転換について議論しました。
《広島G7ユースサミット》
ICANと広島大学は、4月下旬の
3日間、広島でG7
ユースサ
ミットを開催しました。
各国から集まった50名の参加者の多くは、母国の様々な反核・平和組織、NGO、更には政府機関で活動しています。
彼らは、このサミットに、「核問題に関する実態を踏まえた研修の受講とともに、他国や他の運動体の若い専門家との国を超えたネットワークを強化すること」を目的として、参加しました。
参加者は、有識者からの講演のほか、平和記念公園と平和記念資料館を訪れ、小倉桂子(おぐら けいこ)さんの被爆体験証言を聴講しました。
ある参加者は、「被爆について、データとしては知っていたが、小倉さんの証言や資料館の見学により核兵器のもたらす非人道的な惨劇を現実として実感した」と述べていました。
4月26日には、参加者のうち7名のG7各国代表が一般市民に語り掛けるイベント「核兵器のない世界に向けた若者の役割」が開催されました。
松井(まつい)市長による歓迎挨拶の後、参加者が地域活動を始めるまでの道のりや、広島に来た目的について語り、また、このサミットで得た経験を振り返りました。
会議の最後に、「これから世界のリーダーになっていく者として、団結して、核兵器とその破滅的な結末から解放された安全な世界を達成することを決意する。」と誓い、G7広島サミットに出席する首脳たちに人類全体と地球の将来を守るための取組を要請する声明を発表しました。
私は、歴史家として、過去の出来事や残された重荷に
滅入ってしまいがちですが、世界中の若い
リーダー達の傍で、彼らのエネル
ギーを感じ、意見を聞くことはとても楽しい経験でした。
今日の課題に対して、力強く新鮮な風が吹いるように感じました。
平和の庭には新芽が芽吹いていました。
ロバート・ジェイコブズ
広島市立大学 広島平和研究所、大学院平和学研究科の教授。
アメリカの原子力科学技術の歴史に加え、世界の被爆者と核の遺産に関する問題に取り組んでいる。
17年間広島に在住。