市民の声は
G7首脳に届いたか
ピースボート 共同代表
はたけやま すみこ
畠山 澄子
G7広島サミットが閉幕した翌日、私は広島から東京に戻る新幹線の中でこの半年間の出来事を思い起こしていました。
市民の立場から行った数々の取り組みを、さてどう評価しようかしらと。
この半年間、私は外務省が運営する「C7(Civil 7 / 市民7)」というプロセスを通して、市民社会の立場からの政策提言づくりに携わりました。
C7はG7サミットに先立ち設けられるプロセスで、議長国が市民の声を取り入れる仕組みとしてあるものです。
議長国への提言を行うプロセスに携わる、いわゆるエンゲージメントグループは、C7以外にもあります。
ビジネス界のメンバーから成る Business 7(B7)、科学者から成る Science 7(S7)、若者から成る Youth 7(Y7)などです。
C7ではワーキンググループと呼ばれるテーマ別の作業部会に分かれて政策提言をまとめ、それらをさらにまとめたものをひとつの政策提言書として議長国に手渡すのが通例です。
今年のC7では、昨年のC7から引き継がれた「気候と環境正義」「公正な経済への移行」「国際保健」「人道支援と紛争」「しなやかで開かれた社会」という5つの作業部会に加え、新たに「核兵器廃絶」という作業部会が新設されました。
昨今の国際情勢や開催地を踏まえて核問題がひとつの大きなテーマになることが予想されていたためです。
私は核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のスージー・スナイダーさんとともに、核兵器廃絶作業部会のコーディネーターを務めました。
4か月にわたって英語で3回、日本語で2回、さらにその合間にメールでのやりとりを重ね、国内外の125の団体で政策提言をまとめました。
被爆者団体や広島の市民団体からも多くの参加があり、広島平和文化センターのジャクリーン・カバッソ専門委員もこのプロセスに参加されました。
会議でのやりとりからは、一歩でも二歩でも核兵器廃絶に近づくことのできるようなG7にしたいとの参加者の真剣な思いが伝わってきました。
参加者の願いと具体的な提案を首脳らに届く形でまとめたいと、適切な表現や文言を最後まで模索しました。
提言では、G7首脳に被爆者から直接話を聴き、核兵器の使用が人々や環境にもたらす被害を認識することを求めた上で「全ての核兵器使用の威嚇の明確な非難」「核兵器廃絶のための具体的な交渉の計画」「核兵器禁止条約への積極的な姿勢、核被害者援助と環境修復への尽力」「新STARTの後継条約の交渉の支援」「核のリスクを低減するための措置」
「ユースのための軍縮教育の重要性」などを最終成果文書に盛り込むことを求めました。
4月12日にはC7のメンバーが首相官邸を訪問し、岸田
(きしだ)首相に政策提言書を手渡しました。
C7代表による政策提言書の手交
(撮影 ソーシャルグッド/宿野部隆之)
その直後に広島で開催された「みんなの市民サミット2023」では、より広くこの提言書について知ってもらえるよう、分科会で核兵器廃絶作業部会の取り組みと提言の内容を紹介しました。
また、ピースボートが国際運営団体を務めるICANとしては、「広島G7ユースサミット」や「核兵器廃絶に向けたG7国会議員フォーラム」を開催して世界中の若者や国会議員らにこの政策提言書の内容を各国首脳にアピールしてもらうよう呼びかけました。
こうして迎えたG7サミットでは、G7首脳が揃(そろ)って平和記念公園を訪れ、資料館を訪問し、被爆者と面会しました。
私たちが提言を通して訴えた被爆の実相に触れてほしいという点は、十分ではなかったかもしれませんが果たされました。
一方、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」と銘打たれた成果文書に、私たちの主張はほとんど反映されませんでした。
核兵器廃絶や核兵器禁止条約といった言葉がなかっただけでなく、核抑止の肯定ともとれる文言が入ってしまったことは、とても残念でした。
私は今、それでも前を向き続けたいと感じています。
市民としての声は上げ続けることが肝心です。
歩みをとめないことが大事です。
今回の取り組みを通じて、核兵器のない世界のための志を持つ多くの人と繋(つな)がりました。
核問題に限らず、社会の諸課題に全力で取り組む人たちと出会い、勇気をもらいました。
これを糧に、これからも政治家に声を届けるという取り組みを諦めずに続けていきたいと思っています。
畠山 澄子 (はたけやま すみこ)
ピースボート共同代表。
被爆者と世界をまわる「ヒバク
シャ地球一周 証言の航海」に携わる。
ケンブ
リッジ大学卒業、ペンシルベニア大学博士課程修了(科学史)。
共著に『軍縮教育
ピース
ボートの方法論』[英語]など。