和文機関紙「平和文化」No.214, 令和5年12月号

「人道的・人類的アプローチ」つなげた形での「被爆の実相」の発信

広島平和文化センター 副理事長
たに しろう

谷 史郎

谷副理事長

 「人道的・人類的アプローチ」は、国際社会において普遍的に承認されつつある。 これは、核兵器の取扱いについて、これまで主に国家安全保障の観点から議論されてきたのを改め、核兵器使用の人類に対する壊滅的な結果(humanitarian impact)を念頭に置いて、人類の生存を守るという観点から議論するよう、パラダイムを転換するものである。 その動機は、中々進展しない核軍縮を、考え方の枠組の変更により、積極的に進めようとすることにある。
 私は、平和に向けて、より効果的な発信を行うためには、この「人道的・人類的アプローチ」が「被爆の実相」を背景として構築されてきた経緯を踏まえ、「人道的・人類的アプローチ」とつなげた形で「被爆の実相」を発信していくことが重要であると考えている。 すなわち、「被爆の実相をみると、熱線、爆風、放射線等により人類の生存が破滅されることが証明されるので、その事実を根拠として核兵器を廃絶すべきである。」といった主張となる。
 その意味合いは、従来の枠組では、「被爆の実相」が核廃絶にいかにつながるかは明確でなかったが、「人道的・人類的アプローチ」を前提とすれば、「被爆の実相」を訴えることは直接核廃絶につながるという確信を持てるようになることにある。 以下、具体的なメリットについて、3点述べることとしたい。
 第1に、核廃絶への具体的な道筋として、核兵器禁止条約とNPTが両立・補完しているが、どちらにおいても「人道的・人類的アプローチ」、すなわち核兵器使用による人類の破滅という基本認識は共有されている。 このため、「人道的・人類的アプローチ」とつなげた形で「被爆の実相」を強調することは、両者の議論の共通基盤をつくることにつながるという意義がある。
 第2に、モチベーションをもった若い世代から「核廃絶に向け自分は何ができるのか」と問われることがある。 この点、「人道的・人類的アプローチ」を前提とすれば、「被爆の実相」を発信すること自体が、核廃絶につながる世論形成に大きな役割を果たすことが理解できるようになる。
 また、広島を訪れる外国人や修学旅行生の皆さんにも、資料館や被爆体験証言で感じ取った「被爆の実相」が、核兵器使用による人類の破滅を意味することを理解することで、人類生存のためには核廃絶以外に方法がないことが確信できるようになる。
 第3に、「被爆の実相」の説明に対して、「他の空襲等でも多くの死者が発生している。」「地政学的に核抑止が必要である。」といった様々な見解が出されることがある。 その場合でも、「被爆の実相」は核兵器使用による人類の壊滅を意味するため、勿論(もちろん)個別課題には対処が求められるものの、核廃絶を訴える必要性自体は揺るがないこととなる。
 以上のような「人道的・人類的アプローチ」とつなげた形での「被爆の実相」の発信を通じ、「人道的・人類的アプローチ」に基づく国際的な核廃絶の議論へ貢献が可能となることから、広島の役割はさらに重要性を増すものと考える。
(令和5年11月)
 
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