“平和について思う”
被爆体験の継承と人権教育の推進

広島平和教育研究所 小早川 健
プロフィール
〔こばやかわ けん〕

1951年生まれ。
2003〜2007年、広島平和教育研究所事務局長
2008〜2011年、広島平和教育研究所理事長、広島平和文化センター理事、広島県教職員組合執行委員長

広島平和教育研究所
広島平和教育研究所は1972年に設立されました。 広島平和教育研究所設立宣言文には「人間の心に平和のとりでを築くことは、教育の力にまつところが大きく、ヒロシマは核時代の教育を問い直す原点である。 教育を通して、ヒロシマを後の世代に継承し、人類共通のものにすることは、世界平和に貢献する人類的責務である」と述べられています。
  その「責務」を自覚しつつ、私たちは「平和教育」に関する研究を進めてきました。
  平和教育研究所設立宣言文は、ユネスコ憲章(けんしょう)の前文 「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」を引用しています。
  ユネスコ憲章は第二次世界大戦を「人間の尊厳(そんげん)・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認し、 これらの原理の代わりに、無知と偏見(へんけん)を通じて人間と人種の不平等という教義をひろめることによって可能にされた戦争であった。」と分析しました。
  ヒロシマの教職員として、被爆体験の継承は大変重要なテーマです。 そのことを抜きにヒロシマでの平和教育を語ることはできません。 しかし、ユネスコ憲章にもあるように、「人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理」(いわゆる人権問題)の推進なくして平和な世界を作り出すことはできないのです。
  平和教育研究所は被爆体験の継承とともに「性差別、障害者差別、部落差別、民族差別」等、広い分野での人権問題も平和教育の課題としてきました。
平和教育実態アンケート
広島平和教育研究所は昨年、「平和アンケート」調査を実施しました。 まだ分析が終わっていませんが、分析が終わりしだい報告をおこなう予定です。
  少し古くなりますが、1982年、1997年、2004年には「平和教育実態調査」を実施しています。 (広島平和教育研究所のホームページ で研究報告をクリックすれば2004年度の実態調査を見ることができます。)
  2004年の実態調査を1997年の実態調査と比較すると、学校の中に平和教育に関する年間計画を立てて実践している学校が激減するなど大きな変化があります。 また、平和集会などの取り組みが、広島市内の学校に比べ、広島市以外の学校で大きく減少しています。 この傾向は、現在も変わっていません。
平和教育実態調査アンケートから
※1997年調査では,平和教育推進体制は何らかの形で存在しているだろう
と考えられたため「推進態勢は作られていない」という選択肢はなかった。
なぜ、このような傾向が起こっているのか。 それは文部科学省 「是正(ぜせい)指導」(2004年度の平和教育実態調査の中に是正指導の説明を行っています) の影響が大きいのですが、それに加え、学校現場の多忙化が拍車をかけています。 学校では膨大な量の報告書類作成、学校評価制度・人事評価制度等による達成目標数値向上のための取り組みに多くの時間と労力が費やされているのが現状です。 また、「平和教育」は学習指導要領の1項目として掲げられているわけではありません。 ありませんから、テストの点数を重視する風潮(ふうちょう)とも相まって、授業内容の中に平和教育が取り込みにくくなっているのです。 その結果、人権学習も平和学習もその規模をどんどん縮小しています。
  しかし、教育基本法は「教育の目的」を次のように規定しています。 「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」 すなわち、教育の目的は「人格の完成」であり、学校教育は「平和で民主的な国家及び社会の形成者」を育てることに重点が置かれなければならないのです。
  1946年、文部省(当時)は「新教育指針」を作成し、教育関係者に次のように呼びかけました。 「新しい日本を平和的文化国家として建設しよう。そして平和を愛し文化を求める人間をつくってゆこう。」と。
  私たちは、もう一度教育の基本に立ち返り、平和教育に取り組んでいきます。
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