和文機関紙「平和文化」No.210, 令和4年10月号

ヒバクシャの思い・ヒロシマの心を国連へ、各国代表へ

~被爆者の方々をサポート~

福島 守

広島県生活協同組合連合会 事務局長
広島県生活協同組合連合会
事務局長
福島守氏

 今年8月にニューヨークの国連本部で開催された核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に、日本生活協同組合連合会(日本生協連)が派遣する代表団の一員として参加しました。 前回は、全国の生協から100人規模の代表団でしたが、今回はパンデミックの影響もあり、6人(日本生協連3人、広島1人、長崎2人)と規模を縮小しての派遣となりました。 派遣の目的は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表4人の活動をサポートし、共に核兵器廃絶を訴えることです。
 生協は「平和とよりよい生活のために」を理念に、全国で様々な平和活動に取り組んでいます。 広島・長崎の被爆者の方とともに核兵器廃絶を世界の人々に訴える活動を行ないました。
 
【各国代表部への要請】
 核兵器廃絶への具体的な前進が合意されるよう、被爆者の方が自身の体験と核兵器廃絶への願いを伝えました。
 最初に、今回面会した唯一の核保有国である英国の代表との会談では、核兵器を減らす努力をすると言われたことに対し、日本被団協の木戸季市(きど すえいち)事務局長は「減らすだけではダメだ、0にしなければダメだ」と一喝し、思いを伝えました。
 次のオーストリア代表との会談では、核兵器禁止条約第1回締約国会議で大きな役割を果たしたことへの感謝を伝え、代表は「被爆者の方の思いを受け取り仕事をしていく」と述べられました。
 また、メキシコの軍縮大使へは、取り組みと貢献への感謝を伝えました。 大使は被爆者やNGOの活動を評価し、「若い世代への教育に取り組み、政府とNGOとの懸け橋になれるよう尽力する」と心強い言葉をいただきました。
 国連日本政府代表部との面会では、木戸事務局長は、岸田文雄(きしだ ふみお)総理の演説は具体的に何をするのかが曖昧だと指摘し、日本被団協の和田征子(わだ まさこ)事務局次長は、核兵器禁止条約に言及してほしかったと述べました。 小笠原一郎(おがさわら いちろう)軍縮大使は、「広島選出である岸田総理は、核なき世界に向けて熱い思いを持って取り組んでいる。目指すものは同じだ。核兵器廃絶のためのプロセスを作る必要がある」と無難な回答でした。
 各国代表との会談では、被爆者の方々の核兵器廃絶への熱い思い、揺るぎない言動、世界への訴えに感銘を受けました。
 
【国連への要請活動】
 中満泉(なかみつ いずみ)国連事務次長兼軍縮担当上級代表との会談には、被爆者のサーロー節子(せつこ)さんも同席されました。 和田事務局次長から中満代表に、被爆者に寄り添った理解ある言動への感謝を伝え、中満代表からは、被爆者を労ねぎらい、被爆体験や核兵器の恐怖を発信していることへの感謝をいただきました。 最終文書の採択と核軍縮への期待を述べ会談を終えました。
中満代表との会談
中満代表(前列左)との会談
 国連ロビーで開催された原爆展では、被爆の実相や、70年以上活動してきた被爆者の取組を、全国の生協の募金で製作されたパネルで紹介しました。 オープニングセレモニーでは、田上富久(たうえ とみひさ)長崎市長、広島市長代理の小泉崇(こいずみ たかし)平和文化センター理事長が挨拶。 続いて木戸事務局長が被爆した当時を振り返って「遺骨も分からない。それまで生きてきた人間の全てが消された」と核兵器の非人道性を強調されました。 今回の再検討会議議長のグスタヴォ・スラウビネン大使も登壇し、「広島、長崎への原爆投下は、人類への投下だ」と述べました。 原爆展は多くの方が熱心に見学し、米軍海兵隊の教育者も被爆者の話に耳を傾けていました。
 また、NGOセッションに登壇した和田事務局次長は、「核保有国とその同盟国は、不誠実と傲慢さのために人類全体が核戦争の瀬戸際にあることを認識し、『明確な約束』を誠実に履行してください」と訴えました。
 
【被爆の実相を広げる活動(被爆体験証言)】
 ドイツ平和協会、東京大学NY(ニューヨーク)オフィス、NY仏教会、聖ヨハネ大聖堂チャペルで証言活動を行いました。 また、国連チャーチセンターにおいて、日本時間の8月6日8時15分に合わせて平和の集いが行われ、田上市長、小泉理事長、木戸事務局長が平和の鐘を鳴らし、松井一實(まつい かずみ)広島市長のメッセージが発信されました。
 
【NPT再検討会議を終えて】
 ただ1つの国が異議を唱えて全会一致での合意には至らず、最終文書が採択されなかったことはとても残念です。 しかし、次のように成果もありました。
① 圧倒的多数の国が核保有国に核兵器廃絶へ具体的な行動を起こすよう迫り、世界のうねりを示す会議になった。
② ロシアを除く全ての締約国が異議を唱えなかった最終文書案には大きな意義がある。
 これから大切なのは、今回の成果及び明確になったことを認識することと、そこから導き出される"道筋"を整理して課題化することです。 唯一の戦争被爆国である日本が何を発信するかが大きなポイント。 そのために世論で日本政府の姿勢を変えることができると確信します。
 今回の派遣で得た情報、体感したことをもとに、行政や日本被団協、広島県被団協等、市民団体とともに核兵器廃絶に向けての取り組みを推進していく決意を新たにしました。
(2022年9月)

プロフィール
〔ふくしま まもる〕
1959年生まれ。 広島県呉市出身。 神奈川大学法学部卒業。
1983年広島県民生活協同組合(現生活協同組合ひろしま)に入協、人事部、店舗部、宅配事業部管理職を歴任。 2013年広島県生活協同組合連合会事務局長、現在に至る。

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