和文機関紙「平和文化」No.219, 令和7年3月号

人類への警鐘

メリッサ・パーク

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局長
メリッサ・パーク

メリッサ・パーク

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局長

 世界中で核の脅威が増大する中、世界中の指導者たちが被爆者の警告に耳を傾け、注意を払うことが、これまで以上に重要になっています。 そんな中、昨年のノーベル平和賞を日本被団協に授与するという決定は、被爆者の何十年にもわたる不屈の、勇敢な活動に対する当然の評価であるだけでなく、緊急の警鐘でもありました。
 私達が今すぐに進路を変えなければ、80年前に広島と長崎の人々にもたらされたような惨状が、ほぼ確実に繰り返されることになるでしょう。
 ノルウェーのノーベル委員会は昨年10月に「核兵器使用のタブーが圧力にさらされています。」と指摘しました。 さらに、核拡散のリスクが広がり、核軍拡競争は急激に進行し、近年では、核軍縮目標に真剣にコミットメントを示す核保有国は一つもありません。
 実際、私たちは無意識に破滅に向かって進んでいるかのようです。 被爆者たちが何度も、最も強い言葉で警告してきた通り、「核兵器と人類は共存できない」のです。
 しかし、別の道が開かれるという希望の兆しもあります。 世界の半数の国が、いかなる形であれ核兵器を支持しないという国際法上の拘束力のある義務を受け入れたのです。 これらの国々は、核兵器のない世界のための法的および規範的基礎を築くために団結しました。
 もちろん、私が言及しているのは、画期的な核兵器禁止条約(TPNW)の締約国および署名国のことです。 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、この条約が2021年に発効したことを「驚異的な成果であり、核兵器の最終的な廃絶に向けた一歩」と称賛しました。
 この条約は、核兵器の全面禁止を課すだけでなく、初めて、締約国の核兵器計画を期限内に検証可能な形で廃絶するための法的枠組みを確立し、核兵器の使用と実験の被害者を支援するための新たな条項も盛り込んでいます。
 前文では、被ばく者が「容認し難い苦しみ及び害を受けた」ことを認め、また、被ばく者が市民団体、赤十字、宗教指導者などとともに軍縮を推進することで「人道の諸原則を推進する」役割を担っていることも認めています。
 事実、多くの被ばく者が核兵器禁止条約の実現に尽力しました。 被ばく者は2017年の交渉会議や、ノルウェー、メキシコ、オーストリアで開かれた核兵器の人道的影響に関する会議で発言しました。 街頭で署名を集め、核兵器禁止の緊急性を広く訴えてきました。
 国連本部で条約の最終案が採択された時、ICAN創設以来、私たちの運動をリードしてきた広島の被爆者、サーロー節子さんは、その瞬間を「核兵器の終わりの始まり」と表現しました。
 彼女は集まった外交官やキャンペーン参加者に、「しばらくの間立ち止まり、広島と長崎で非業の死を遂げた人々の証を感じ取っていただきたいと思います。何十万人もの人々が犠牲になったのです。犠牲者一人ひとりには名前がありました。一人ひとりが、誰かに愛されていました。」と訴えました。
 私たちが今取り組むべき課題は、TPNWがその高い目標を達成できるようにすることです。 より多くの国に参加してもらうために、たゆまぬ努力を続けなければなりません。 もちろん、日本もその中に含まれますし、最終的には現在核兵器を保有している9カ国すべてが含まれます。
 条約の拘束力のある義務をまだ受け入れる意思のない国々も、少なくとも締約国会議を傍聴し、条約の実施に向けた取り組みに対する理解を深めるべきです。 そうすることで、核軍縮検証、保障措置、被害者支援などの重要なテーマについて意見や専門知識を共有する機会も得られます。
 唯一の戦争被爆国である日本がこうした外交協議で発言することは、特に意義深いものとなるでしょう。
 しかし、最終的な目標は、日本や他のすべての国が単に会議に参加するのではなく、条約に加盟することです。 TPNW締約国は2022年に次のように宣言しました。 「我々は、最後の国が条約に参加し、最後の核弾頭が解体・破壊され、核兵器が地球上から完全に廃絶されるまで、休むことはありません。」
 彼らは、「増大する核のリスクと危険な核抑止の永続化を傍観することはない」と誓いました。
 核兵器の存在によって安全になる者はいません。 私たち全員の安全性が無限に低下するだけです。 核兵器というテロと大量破壊の道具は、敵意、恐怖、不安定性、そして比類なきリスクをもたらすのみです。 核兵器は、何の有用性も正当な目的も持たず、すべての人々のために一刻も早く廃絶されるべきです。
 私たちは、世界の子どもたちに対して、軍縮を進めるためにあらゆる努力をする義務があります。 核の危険性を永続させ、未来の世代にこの究極の脅威を負わせるすべての国家政策や計画に断固として抵抗しなければなりません。
 もし今日、都市に対する核攻撃が発生した場合、最も大きなの被害を受けるのは子供たちです。 子供たちは大人よりも電離放射線の影響を受けやすく、命に関わる火傷や爆風による負傷を負う可能性が高いからです。 この事実だけでも、世界のすべての政府が緊急の行動を起こすべき理由となります。
 米国による広島と長崎への原爆投下から80年が近づくなか、私たちは何万人もの子どもたちの死と苦しみを含む、その計り知れない人的被害を振り返らなければなりません。 そして、軍縮の理念に改めて専念しなければなりません。
 人間を無差別に、大規模かつ何世代にもわたって殺傷するように設計された兵器は、私たちの世界に存在すべきではありません。
(2024年12月)
 
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〔メリッサ・パーク〕
元オーストラリア国際開発大臣、国連弁護士。 2023 年9月より現職。
ICANは2017年に「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的結末への注目を集め、条約に基づく核兵器禁止の実現に向けた画期的な取り組み」によりノーベル平和賞を受賞した。
 
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