海外では必ずしも原爆の壊滅的で非人道的な被害が十分に認識されていない実情に鑑み、世界のできるだけ多くの人々に被爆の実相を伝え、核兵器廃絶に向けての意識を共有してもらうことができるよう、平和記念資料館では平成7年度より海外でのヒロシマ・ナガサキ原爆・平和展を開催しています。
令和6年度は、10月2日から11月3日までアルゼンチン・ブエノスアイレス市で、12月3日から2月28日までスロベニア・マリボル市で開催しました。
アルゼンチンはIAEA事務局長や直近のNPT再検討会議議長を輩出するなど近年の国際社会で核軍縮、核の適正管理の推進に尽力されている国であり、一方スロベニアは第2次世界大戦時のナチスによる迫害や連合国による空爆の経験を基に戦争のない平和な世界の構築に強い意欲を持った国で、展示会の開会行事にはナターシャ・ピルツ=ムサル大統領も出席されました。
両都市での原爆・平和展では、学徒動員された中学生が身に着けていた腕章を始め、中身が黒焦げになった弁当箱、佐々木禎子
(ささき さだこ)さんの折り鶴など実物資料20点に加え、広島・長崎の被爆の実相を説明したパネル30点を展示するとともに、被爆者証言ビデオや映画の上映、折り鶴のワークショップなどを行いました。
また、ブエノスアイレス市では被爆者の八幡照子
(やはた てるこ)さんが、マリボル市では被爆者の笠岡貞江
(かさおか さだえ)さんが展示会場や現地の学校等で被爆体験証言を行い、自らの凄惨な体験や平和への思いを語りました。
会場に集まった多くの市民や学生たちは真剣な表情で証言に聞き入り、中には涙を流しながら被爆の悲惨な光景や被爆者の苦しみ、悲しみなどに心を寄せる人々も見受けられました。
証言を聴講した人達からは、原爆被害の悲惨さを初めて知った、被爆後も心や身体の傷に苦しみ続ける被爆者の人生を目の当たりにしてとても胸が痛んだ、非人道的な結末を招く核兵器はあってはならないなどの意見が寄せられました。
今回の原爆・平和展の開催を通じて、海外で原爆被害の悲惨さ、非人道性を多くの人々に伝えることができたこと、特に被爆者の体験談を直接伝えることで核兵器が絶対悪であることの認識を広めることができたことは大きな成果であったと考えています。
(平和記念資料館 啓発課)