和文機関紙「平和文化」No.220, 令和7年6月号

核軍縮を訴える平和首長会議代表団の派遣

核兵器禁止条約第3回締約国会議(3月2日~8日)

 ベリット・オーナイ副会長(ドイツ・ハノーバー市長)を代表として、香川剛廣(かがわ たけひろ)事務総長(本財団理事長)、谷史郎(たに しろう)本財団副理事長等の代表団を派遣しました。
 被爆地の両市長が不在の中、オーナイ副会長は、欧州の危機的状況と900を超えるドイツの都市で構成する平和首長会議の取組にも言及され、世界で最も大きい自治体平和ネットワークとして、説得力を持って対応に当たられました。
核兵器禁止条約第3回締約国会議(一般討論演説)でのスピーチ
オーナイ副会長によるスピーチ
オーナイ副会長によるスピーチ
 香川事務総長に続き、オーナイ副会長がスピーチを行いました。 香川事務総長は、平和首長会議は核兵器禁止条約を極めて重要視しており、日本被団協のノーベル平和賞受賞は、核保有国を含む国際社会全体に「核兵器の使用は決して許されない。」というメッセージを改めて示していると訴えました。 続けてオーナイ副会長は、かつてハノーバー市が第二次世界大戦中に甚大な被害を受けたこと、核戦争の危機が高まる中、核兵器禁止条約が核兵器廃絶を達成するための道を切り開いたことなどを述べ、全ての国が本条約を批准し、誠実な対話を通じた紛争の平和的解決へと外交転換するよう各国政府に強く求めました。
国連・各国政府代表者との面会
 アカン・ラクメトゥリン核兵器禁止条約第3回締約国会議議長及び核兵器禁止条約締約国であるタイ、メキシコ、アイルランド、南アフリカ、オーストリアの政府代表者と面会を行い、若い世代への平和教育の重要性などについて共通認識を得ることができました。
ICANと共同した平和首長会議主催のサイドイベント開催
サイドイベントの様子
サイドイベントの様子
 約70名の聴衆で、立ち見が出るほどの満員となる中、「核兵器のない世界を求める市民社会の声」と題したイベントをICANと共同で開催しました。 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子(なかむら けいこ)准教授の進行の下、被爆者代表として、濱住次郎(はますみ じろう)日本原水爆被害者団体協議会事務局次長が自身の胎内被爆やノーベル賞を受賞した理由、核廃絶の必要性について発表し、参加者は心を動かされた様子でした。 また、若者からの「若い世代に何を期待するか。」との質問に対し、濱住事務局次長は、「被爆体験の継承は、オンライン証言等も含めて多くの人に聞いてもらい、それを周りの家族や友人に話すことにより世界が広がっていくので期待している。」と若い世代による被爆体験の継承の重要性について参加した若者と共有しました。
Back from the Brink、ICAN等との共催サイドイベントへの出席
共催サイドイベントの様子
共催サイドイベントの様子
 ノースウェスタン大学の宮崎広和(みやざき ひろかず)教授等が中心となり企画した、都市レベルでの核軍縮のための組織化と政策提唱に関して議論を行うサイドイベントでは、米国の平和首長会議加盟都市の首長らの参加を得て、核兵器が使用された際にターゲットになるのは政府ではなく都市であることから、核廃絶に都市が関わることの必要性等について議論が交わされました。 核兵器禁止条約の根拠は「人間の安全保障」であるため、国家間の信頼関係が揺らぐ中、市民の命を守る都市レベルの平和の取組の強化が必要であるとの認識が深められました。 この平和を推進する上での都市の役割については、これからも重要な視点にしていきたいと考えます。
 また、これに関し、ラクメトゥリン議長に面会した際にも、「市民の平和への意識を高めていく努力を一歩一歩進めてほしい。」との期待が寄せられました。
平和首長会議原爆平和展、こどもたちによる“平和なまち” 絵画展、VRゴーグル体験
 同会議の会期中、国連本部において、会議出席者や国連関係者に理解を深めてもらうため、平和首長会議原爆平和展、こどもたちによる“平和なまち”絵画展、VRゴーグル体験を開催しました。 特に今回初めてとなったVRゴーグルは、被爆の惨状等をVR映像により疑似体験できるもので、1日当たり約80名が間断なく体験し、「この映像は素晴らしい。」「映像で当時の状況を疑似体験でき、いかに悲惨だったか知ることができた。」「こういう映像は忘れてはならないものだと思う。」など、高く評価する声が非常に多く聞かれました。

第11回NPT再検討会議第3回準備委員会(4月27日~5月2日)

 松井一實(まつい かずみ)会長(広島市長)、鈴木史朗(すずき しろう)副会長(長崎市長)、香川剛廣事務総長(本財団理事長)等の代表団を派遣しました。
 今回の準備委員会は、ウクライナでの戦争や中東での紛争が継続する中、来年の再検討会議に向けた最後の準備会合であり、NPTの存在意義が問われているとの危機感が多くの参加者に共有されていました。 こうしたことからも、被爆の実相を伝え、平和のメッセージを世界に発信する広島・長崎の役割に期待する声が多く寄せられました。
NGOセッションでのスピーチ
右から松井会長、鈴木副会長
右から松井会長、鈴木副会長
 松井会長は、被爆から80周年を迎えた現在も地球上に1万2,000発を超える核兵器が存在し、NPTの原則に背く核シェアリングなどが有効であるという考え方が広がっていることは、NPTの原則のみならず、第二次世界大戦後に目指した平和構築体制である国際連合そのものを揺るがしかねない事態であると懸念を表明した上で、平和首長会議は、市民社会の平和意識の醸成と「平和文化」に満ちた世界の創造に向けて全力で取り組む決意を表明し、各国政府代表者に対し、核軍縮・不拡散措置を確実かつ誠実に実行するよう訴えました。
 続けて鈴木副会長は、「核兵器は、人間らしく死ぬことも生きることも許さない絶対悪の兵器であり、決して人類と共存できない。」という被爆者の実体験から発せられた言葉を共有するとともに、戦争被爆地の代表として、「核兵器は決して使ってはならない。核兵器の脅威から人類を守るためには廃絶しかない。」とした上で、「長崎を最後の戦争被爆地に。」と力強く訴えました。
核保有国代表との面会
 核保有国であるフランス、米国及び英国の政府代表者に対し、平和首長会議は、市民社会の立場から平和文化の振興を推進し、世界中の首長と共にボトムアップで国レベルの取組を支えていきたいとの考えを伝えました。 また、NPT第6条に基づき誠実に核軍縮交渉を行うよう要請するとともに、平和首長会議への新規加盟や取組への協力を依頼しました。
国連関係者等との面会
 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「自治体は平和に対して重要な役割を担っているのみならず、気候変動、テロ行為など様々な課題に影響を及ぼしており、また文化というものはコミュニティで構築されていくものである。このため、ローカル、地域の力を高めてくことが重要である。私たち国連は、ローカルの声、首長の声をしっかりと聴き、平和を多くの人々が確信できるよう求めていく必要がある。」と述べました。 これに対し松井会長は、「基礎自治体に大変大きな信頼を寄せていただいており、国連と連帯し、ぜひ国連の平和活動の手助けになるような活動をしていきたい。」と伝えました。
 また、ハロルド・アジュマン第11回NPT再検討会議第3回準備委員会議長とも面会し、松井会長は、「現在の厳しい国際情勢の中だからこそ、理想を目指し、NPT第6条の誠実交渉義務の徹底について議長に期待している。」と述べるとともに、ガーナにおける平和首長会議加盟都市拡大への支援を要請しました。 アジュマン議長は、「私たちの安全保障への取組は急務であり、NPTの枠を超えて、平和の新たな枠組みを再確認する必要がある。また、平和首長会議の行動指針と私たちのそれは一致しており、一緒になって進めていくことが重要である。」と述べ、今後の協力について意見交換を行いました。
国連国際学校(UNIS)訪問
 松井会長は、鈴木副会長、平和首長会議ユースと共に、世界の外交官の子どもが通うUNISマンハッタン校を訪問し、講演を行いました。 広島・長崎の被爆の実相及び被爆者の平和への願いを原点に活動する平和首長会議の取組について説明し、平和首長会議の取組にぜひ参加してほしいと呼び掛けました。 その後、ユース代表がUNIS生徒に向けて、自身の活動や平和への思いについてプレゼンテーションを行ったところ、その完成度の高さからか、傍聴していた生徒たちから大きな拍手が上がりました。
平和首長会議原爆平和展、こどもたちによる“平和なまち”絵画展、VRゴーグル体験
VRゴーグル体験の様子
VRゴーグル体験の様子
 同会議の会期中、平和首長会議原爆平和展、こどもたちによる“平和なまち”絵画展及びVRゴーグル体験を開催しました。
 4月28日には岩屋(いわや)外務大臣が来場され、特に現在約8,500都市が平和首長会議に加盟しているという説明に驚いた様子でした。
平和首長会議ユースの活動
 広島県内で平和活動に取り組む高校生8名を平和首長会議ユースとして派遣し、次代の平和活動を担う青少年の育成を図りました。
 ユースは、中満泉(なかみつ いずみ)国連事務次長兼軍縮担当上級代表に対して、約3万4千筆分の「『核兵器禁止条約』の早期締結を求める署名」の目録を手交し、中満次長からは感謝の意が伝えられました。
 同準備委員会のサイドイベントとして平和首長会議が開催した「ユースフォーラム」では、平和首長会議ユースや世界各地の若者11組が、自身の取組の発表や若者の役割について意見交換を行いました。 参加したユースからは、核兵器に関する問題や社会問題に対し、主体性や当事者意識をもって取り組むことの重要性を改めて認識した、との感想がありました。 最後に、中満事務次長から、「若者たちには自分たちの未来のために声を上げる権利がある。それを行使し、自分の意見を遠慮せずに表現してほしい。」と激励の言葉をいただきました。
ユースフォーラムの様子
ユースフォーラムの様子
 また、市川とみ子(いちかわ とみこ)軍縮会議日本政府常駐代表との面会では、大使からユースに対し、「軍縮は無視できない課題で、市民一人ひとりが関心を持ち、協調の道を探ることが重要である。若い世代が積極的に国際社会にかかわる姿を期待している。」との言葉をいただきました。
 ユースは、その他UNICEF(国連児童基金)、UNDP(国連開発計画)、UN Women(国連女性機関)を訪問し貴重な経験を得ました。
UNDPを訪問する平和首長会議ユース
UNDPを訪問する平和首長会議ユース
(平和首長会議・国際政策課)
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