本年8月7日から10日までの4日間、長崎市において第11回平和首長会議総会を開催しました。
総会では、今後の平和首長会議の活動方針を考えるに当たって、都市はなぜ平和の担い手になるのかについて、様々な議論が行われましたので、ご紹介します。
1 基調講演で示された「都市が平和をつくる主体である理由」
開会に際し、まず、国連大学(東京都港区)のチリツィ・マルワラ学長による基調講演が行われ、「都市の役割」に関して示唆に富むお話をいただきました。
(1)平和は条約ではなく“人”が築く
マルワラ学長は冒頭、国連大学が1975年、第二次世界大戦の終結から30年後に創設された背景に触れ、「平和は外交や条約だけでなく、教育・研究、そして正義と持続可能な社会を支える知識を育むことによって実現する。」という認識のもとに設立されたことを紹介しました。
その上で、国連大学の根底には「平和は条約や制度によって自動的にもたらされるものではなく、人によって築かれる。」という一つの明確な信念があると強調しました。
知識を持った市民、エンパワーされた地域社会、そして共感と行動力を備えた次の世代こそが、より良い世界を形づくるというこの考え方は、都市という場を通じて平和の基盤を育てようとする本総会のテーマと深く結びつくものでした。
(2)都市のリーダーシップと“倫理的想像力”
続いて学長は、市長の役割について触れ、「都市のリーダーは単に自治体を運営するだけでなく、市民が抱く倫理的な想像力に直接働きかけ、その形成を担っている。市長のリーダーシップは、人々との距離の近さ、信頼、そして日常生活の現実に根差したものである。その上で、都市が連帯する平和首長会議は、核兵器廃絶や平和文化、人間の尊厳の擁護といった地球規模課題に対し、都市の声を力強く世界へ届けている。」と評価されました。
さらに、こうした平和首長会議の活動の積み重ねが、都市が戦時には標的となりながらも、同時に危機の時代に平和を支える主体となることを、世界に力強く示してきたと述べました。
(3)平和の概念の変化と、都市が果たす新たな役割
さらに学長は、平和とは単に戦争がない状態ではなく、正義、持続可能性、そして包摂的なガバナンスが存在する状態であると強調しました。
国連創設80年と広島・長崎への原爆投下から80年という節目に触れつつ、将来世代にどのような世界を残すのかという問いこそが、国連と国連大学の使命の核心であると指摘しました。
また、気候・環境危機や人口動態の変化、公正な教育・デジタルリテラシーの確保などを緊急の課題として挙げ、SDGs全体の進捗が、全体として遅れている現状を踏まえ、恐怖に依拠した抑止ではなく、人間の尊厳、信頼、対話、そして平和文化を基盤とする秩序への転換が必要だと訴えました。
(4)記憶を未来へとつなぐ都市としての広島・長崎
講演の結びで学長は、広島・長崎が「記憶の都市」として果たしてきた特別な役割に改めて言及しました。
被爆者の証言は、記憶を忘却から守り、未来に向けて教訓を手渡す道徳的な営みであると述べ、記憶を行動や希望へとつなげてきた両都市の歩みを高く評価しました。
2 会議1「核兵器のない世界の実現 ―都市の役割―」における議論
基調講演に続き開催した会議Ⅰでは、核兵器廃絶に向けた都市の責任と役割について活発な議論が交わされました。
パネリストの樋川和子
(ひかわ かずこ) 長崎大学教授・核兵器廃絶研究センター副センター長は、人々の価値観や自己規律、他者への尊重といった「公共善を支える力」は、国家よりもむしろ都市の中でこそ育まれると強調しました。
なぜなら、信頼、誠実さ、尊重、協力、分かち合いといった美徳は、日常生活での市民としての活動に立脚するものだからです。
人々が社会や文化の中で他者への尊重や自己規制を身につけ、その利他的な価値感が平和を支える力となること、そしてそれを育てる場として都市が極めて重要であるという指摘は、基調講演とも通じる重要な論点となりました。
3 平和を育て、次世代へとつないでいく都市の重要な役割
今回の総会を通じて改めて確認されたのは、都市こそが平和をつくり、育てる主体であるという点です。
教育、文化、日常生活という都市の営みそのものが平和の基盤を形成しますし、市民に最も近い行政主体として、都市は人々の価値観や倫理観を育む場であり続けています。
こうした認識は、都市の力を結集する平和首長会議の役割が今後さらに重要性を増すことを示しています。
世界166か国・8,500を超える都市で構成される国際平和ネットワークとして、平和首長会議は、核兵器廃絶と恒久平和の実現に向け、都市の声と実践を国際社会につなぐプラットフォームとしての機能を強化し、加盟都市間の連携を一層深めていきます。
また、次世代が「平和のバトン」を確実に受け継げるよう、都市が持つ教育的・文化的資源を生かした取組を戦略的に推進していきます。
(平和首長会議・国際政策課)