JICAボランティアによる原爆展
開発途上国で、ヒロシマ・ナガサキを伝える
独立行政法人国際協力機構(JICA) 広島市国際協力推進員 濱長(はまなが) 真紀(まき)
数年前、アフリカのウガンダという国で、ある青年海外協力隊員が原爆展を開催しました。 広島市出身の彼が国際協力の分野に関心を持った原点もまた、ヒロシマでした。
 ウガンダに赴任して4ヵ月目、協力してくれる同期の隊員と何度も話し合いを重ね、試行錯誤(しこうさくご)で迎えた初めての原爆展。 自分たちが伝えたいことばかりが先行し、なぜ「原爆」を伝えたかったのか、答えきれない問いが彼の胸に残っていたそうです。
 「このウガンダの地で原爆展を開催することの意味は?」 これまでの原爆展を通じて、彼の胸にしこりのように残っていた思い。
 そして、4度目の原爆展で立てた目標は、「ウガンダの人たちと平和に対する思いを共有したい。」というものでした。 主催者は青年海外協力隊ではなく、あくまでもウガンダの人たち。 現地の人たちと何度も話し合い、勉強会を開き、共同で計画を練っていきました。
 迎えた当日、平和文化センターから寄贈して頂いた原爆ポスターを見ながら、ウガンダ人が自らウガンダ人へ熱心に説明し、千羽鶴の折り方を教え合っていました。
原爆ポスターを見つめる真剣なまなざし

原爆ポスターを見ながらメモをとる
千羽鶴を折る
 原爆展の後、ひとりのウガンダ人が彼に語った言葉があるそうです。
 「この原爆展を通して、このような苦難を乗り越えて今の日本があるということを知ることができた。ウガンダにもたくさんの問題があるけれど、ヒロシマから、やれば出来るというパワーとメッセージをもらった。平和は身近なところから湧き出てくるんだよね。ありがとう。」と。
 時には隊員同士で激しい議論をしながらたどり着いた、ウガンダでの原爆展。 そして、ウガンダの人たちと「平和」について共に考えることの大切さ。
ウガンダでの原爆展 集合写真
JICAボランティアが活動する開発途上国では、過去に内戦・紛争の歴史を抱える地域も多くあります。 そういう地域でヒロシマ・ナガサキの歴史を伝え、共有することの本当の意味は何なのだろうか? 過去にアフリカで、ある内戦から生き抜いた体験を持つ人に、この質問を投げかけたことがあります。 その人はこう答えてくれました。
 「私たちの国は、過去の歴史から今も多くの人が苦しんでいる。けれど、私たちは過去を胸に前を向いて歩いていかなければならない。それは自分たちの子どもの未来のためにも。 原爆が投下され68年経った今のヒロシマ・ナガサキの復興から、私たちは希望を見出すことが出来る。私たちも出来るんだ、と。 だから、ヒロシマ・ナガサキの歴史を通して、お互いの国をもっと理解し、学び合い、共有し合い、平和について共に考えることが必要なんだよ。」

2004年、広島県出身の青年海外協力隊員4名が、偶然にも中米・ニカラグアに派遣され、そこから世界各国に広まったJICAボランティアによる「原爆展」。 現在まで世界59ヵ国で117回開催されてきました(平成26年2月20日現在)。
 この原爆展は、有志のJICAボランティアが開催するもので、今では開催する隊員の半数以上は、広島・長崎県以外の出身者です。 そして、原爆展を開催するきっかけは「親族に被爆した人がいたから」 「幼い頃からの平和教育」 「東日本大震災がきっかけ」等、様々です。 自分たちが体験したことのない痛みや苦しみを伝えることはとても難しく、多くの隊員が悩み苦しみ、試行錯誤しながら原爆展を開催してきました。
 大切なことは、その国の歴史に寄り添いながら、ヒロシマ・ナガサキを伝え、お互いの歴史を共有すること。 現地の人と同じ生活をし、同じものを食べ、同じ目線で活動するJICAボランティアが伝えるヒロシマ・ナガサキは、その国の人たちの心に訴えかけるものがあるのだと思います。
そしてまた、原爆展はその国で先輩隊員から後輩隊員へ受け継がれていきます。 その国の次の世代へ繋がっていくようにという願いを込めて。
 「平和」について考える時間を共有すること。 それは、隣の人を大切にする、という身近なことにも繋がるのではないかと感じます。 そんなきっかけ作りをすることが、未来への一歩になると信じ、これからもJICAボランティアによる原爆展は、引き継がれていくのでしょう。
市内の学校で国際協力について講演
する濱長さん
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