子どもたちが「平和文化」を身につける出発点となる広島への修学旅行
―各学校に対するアンケート調査結果より―
たに しろう
谷 史郎
広島平和文化センター 副理事長
たに しろう
谷 史郎
広島平和文化センター 副理事長
広島への修学旅行による訪問者数は、令和5年度で34万4千人です。
子どもたちの広島訪問を1回と仮定し試算すると、全国の約3分の1が訪れていることになります。
また、地域別の訪問割合は、中国地方102%、四国地方76%、近畿地方49%、関東地方22%などとなっています。
このような広島修学旅行の拡充を目指して、全国の1,121の小・中・高校を対象に、本年3月アンケート調査を実施し、41%、456の学校から回答をいただきました。
ご協力ありがとうございました。
今回の調査で分かった重要な事項として、3点を挙げることができます。
第一に、子どもたちが、広島修学旅行により、戦争や原爆をリアルなものとして感じるようになることが分かったことです。
広島の地で、見学や講話、平和集会など、多岐にわたる平和学習を行う中で、「当時をそのままに伝える、原爆ドーム・資料館」、「一人称で平和を語る、被爆者などの広島の人々」、「平和記念公園にしか存在しない、緊張した空気感」、「熱心に見学する外国人」、「同世代の子どもたちの被害や家族の悲しみ」といった様々な学びの相乗効果によって、戦争や原爆被害の悲惨さと愚かさを、厚みを持った生の体験として、リアルに実感することになります。
すなわち、過去や他の地域での出来事としてではなく、自分や、自分に身近な人と重ね合わせて、考えるようになります。
第二に、子どもたちが、そのリアルな実感を出発点として、平和を尊重する意識を持つに至るプロセスが明確になったことです。
戦争や原爆は平和とは対極にある、真逆の存在ですので、それらをリアルに実感することは、これまでは当り前だと思っていた平和な日々が、実は全く当り前ではなく、先人の努力や、多数の犠牲の上にかち取られた、有難いものであると再認識することにつながります。
それ故、平和は黙っていれば与えられるものではなく、能動的に守っていかなければならないという自覚を呼び起こします。
そして、その自覚は、平和に向けて自ら取り組むことへと発展していきます。
具体的には、あらゆる暴力は否定されるべきであり、仮に争いが生じても、話し合いで、平和的に解決しなければならないことが理解されます。
それは、日常生活で自分にできる取組、すなわち、「人間関係を大切にする、ルールを守る、当り前のことを当たり前に行う」などの実践を伴うものとなります。
さらには、社会を担う一員として、戦争・被爆体験を語り継いでいく責任を認識したり、核兵器廃絶や世界の恒久平和に関心を持ち、声を上げることにつながっていきます。
第三に、修学旅行を実施している学校側のニーズが明らかになったことです。
さらに多彩な平和学習を展開するという観点からは、①本川
(ほんかわ)・袋町
(ふくろまち)小学校平和資料館、②ピースボランティアなどの専門ガイド、③追悼平和祈念館での平和集会の実施、④昼食場所としての新サッカースタジアム、⑤広島の子どもたちとの交流について、学校側の活用意向が高いことが分かりました。
一方、⑥展示見学確保のための資料館の混雑緩和、⑦子どもたちの特性に応じた展示等の対応、⑧各学校での事前学習等に対する支援などを求める声もありました。
今回の調査を受けた対応としては、第一および第二の平和学習上の効果等について、現在修学旅行を行っている学校にフィードバックし、役立てていただくとともに、広く広島修学旅行が実施されている西日本以外の地域の学校に対しても、平和学習の必要性や広島修学旅行の重要性について認識を深めていただけるよう、丁寧に説明していきたいと考えています。
このような活動を通じて、広島での平和学習のメソッド化を図ってまいります。
さらに、第三の学校側のニーズを踏まえて、広島として必要な支援措置を具体化していきたいと思います。
※アンケート調査の資料は
広島平和文化センターのホームページでご覧になれます。
《鈴木由美子(すずき ゆみこ)広島大学副学長のコメント》
これまで多くの小中高等学校の皆さんが、広島を修学旅行先に選び、子供たちに平和学習を行ってこられました。
今回のアンケート調査で、被爆地ヒロシマを実際に訪問し被爆の実相に触れることが、戦争や原爆をリアルに感じることにつながり、子供たちに平和意識を育てる上で優れて効果的であることがわかりました。
時代や国を越えて平和な世界を構築することの大切さを伝え続けるために、広島への修学旅行が全国に広がっていくことを期待しています。