和文機関紙「平和文化」No.217, 令和6年9月号

第11回NPT再検討会議第2回準備委員会に平和首長会議代表団を派遣

 平和首長会議は、スイス・ジュネーブ市で開催された第11回NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議第2回準備委員会へ松井一實(まつい かずみ)会長(広島市長)、鈴木史朗(すずき しろう)副会長(長崎市長)、香川剛廣(かがわ たけひろ)事務総長(本財団理事長)、谷史郎(たに しろう)本財団副理事長等の代表団を派遣しました。
 会議を巡っては、国際情勢が緊迫化する中、核軍縮の進展が現実には厳しい状況に置かれており、それに対して、さらに人道イニシアティブを進めていく必要性など、促進のための次を見据えた議論が行われ始めていることも確認できました。
 また、今回、国連、日本政府代表、核兵器保有国代表に加え、核兵器禁止条約(TPNW)推進国代表、国際平和NGO関係者等とも直接お会いし、様々な意見交換をすることができました。 その中で、本財団がこのような関係諸機関と連携し、国際社会の一員として、被爆の実相を根底に据えつつ、国際的な人道イニシアティブの発展・普及への貢献を念頭に、国際会議等でのアピール活動と、平和首長会議や広島平和記念資料館等を通じた平和学習などのアウトリーチ活動を進めていく重要性を、改めて認識することができました。

NGOセッションでのスピーチ

NGOセッションでの松井会長と鈴木副会長
NGOセッションでの松井会長と鈴木副会長
 松井会長は、「核兵器の使用が人類を滅亡へと導くことを明確に示している広島・長崎の被爆体験は、核兵器廃絶の根拠となるべきものである。」、「我々は、核兵器は『断じて使ってはいけない兵器』であると訴え続けてきたにも関わらず、現下の国際情勢では、核兵器が『条件次第で使える兵器』へと評価が変わっていることを極めて遺憾である。」としました。 その上で、「広島平和記念資料館の訪問者数が過去最多となったことは、国際情勢に対する警戒感の高まりが、多くの人々に核兵器使用がもたらす壊滅的な人道的結果を再確認させようとしているということだ。」と指摘しました。 そして、為政者に対し、「平和を愛する市民社会の声を踏まえ、核戦力強化や軍拡競争を肯定的に捉えることを直ちに見直し、対話による外交努力をもって、核軍縮・不拡散措置を確実に進展させる。」よう訴えました。 続いて鈴木副会長は、核兵器を使用したら人やまちに何をもたらすのか伝えた上で、核兵器国をはじめとした各国に、「核兵器は絶対に使ってはならない。人類が核兵器のリスクから免れるための唯一の手段は『廃絶』しかないのだ。」と訴えるとともに、人類共通の願いとして「長崎を最後の戦争被爆地に」という言葉で、スピーチを締めました。
 このように、被爆地の両市長は、会議の場で、被爆の実相を踏まえた核兵器の非人道性について、核軍縮を進める上での最も重要な基盤となる事実として、各国政府に強く訴えました。

国連関係者との面談等

 国連欧州本部事務局長、国連訓練調査研究所(UNITAR)総代表、国連軍縮研究所(UNIDIR)所長と面談し、平和首長会議との今後の協力体制等について、意見交換を行いました。 国連欧州本部では、現在ジュネーブの本部で行われている広島・長崎の被爆に関する展示を今後如何に発展させていくかということにも話が及びました。
 また、UNIDIRと日本政府代表部が共催したドキュメンタリー映画「Paper Lanterns(※)(邦題:灯篭(とうろう)流し)」上映会で、松井会長が開会挨拶を行い、「未来の世代が、この映画に登場する人々が経験したような悲惨な歴史を繰り返さないよう心から願っている。」と述べました。
 この映画は、各国国民間の相互理解の素晴らしさを表現しており、国際的に被爆の実相を広めていくうえでも、市民間・国民間の相互理解が重要なかぎになることが改めて認識されました。
広島への原爆投下で犠牲となった12名の米兵捕虜の身元を、40年以上にわたり捜索してきた森重昭(もり しげあき)氏の活動を追ったドキュメンタリー映画

核保有国との面談

 核保有国であるフランス及び米国の代表者に対し、両国にも加盟都市があるなど、世界中で、核兵器廃絶を求め、平和を愛する市民社会の輪が広がっていることを紹介し、市民社会の声を踏まえ、対話による外交努力を行い、誠実に核軍縮交渉を行ってほしいと要請するとともに、平和首長会議の取組への協力を依頼しました。 また、各国が考える核軍縮に向けたアプローチ等について、意見交換を行いました。

核兵器禁止条約推進国との面談

 タイ、アイルランド、メキシコの各国代表者及びカザフスタンの政府代表でもある第2回準備委員会議長と面談し、各国の核兵器禁止条約推進に向けた尽力に敬意を表するとともに、核兵器禁止条約の早期締結を願う平和首長会議の取組への理解と協力を求めました。
 タイのウサナ・ベラナンダ大使は、核兵器禁止条約の設立メンバー国の一つとして、TPNWとNPTとの補完性について推進しており、平和首長会議のような世界的な組織と協力していきたいと述べるとともに、広島・長崎の被爆体験は、まさに具体的な核兵器使用の人道的結果を示すものだと明言されました。 なお、会期中、タイとアイルランドは核兵器使用の人道的結果等について議論するサイドイベントを共催し、アイルランドのノエル・ホワイト大使は、NPTでも専門家を呼んで、核兵器使用の人道的結果について議論すべきだと発言されました。

国際平和NGO関係者等との面談

 ICAN、全米軍備管理協会(ACA)、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、マーシャル教育研究所、核時代平和財団(NAPF)の関係者と面談し、来年の被爆80周年に向けて、世界各地で原爆・平和ポスター展等を開催できないかと考えていることや、特に若い世代への平和学習を進めていく方針等を説明し、例えば、ポスター展を行う国において関連するNGOに協力してもらうなど、平和首長会議への支援を呼び掛け、今後一層の連携を図ることで意見の一致を見ました。

平和首長会議ユースの活動

 今回の準備委員会には、次代の平和活動を担う青少年として、広島県内の高校生8名を「平和首長会議ユース」として派遣し、中満泉(なかみつ いずみ)国連事務次長兼軍縮担当上級代表に対して、約4万4千筆分の「『核兵器禁止条約』の早期締結を求める署名」の目録を手交しました。
中満国連事務次長(後列中央)と高校生
中満国連事務次長(後列中央)と高校生
 同準備委員会のサイドイベントとして開催した「平和首長会議ユースフォーラム」では、平和首長会議ユースや世界各地の若者8組が、平和活動の取組を発表するとともに、ディスカッションを行いました。 参加したユースからは、「様々な立場で多様な活動を行う同世代の仲間を知る良い機会になった。」、「従来の枠組みに捉われることなく、様々な視点から核兵器廃絶を働きかける重要性を改めて認識した。」との感想がありました。 最後に、中満事務次長から、「これからの未来を良くするための意思決定にユースが常に参加すべきである。ここにいる皆さんが引き続き平和活動を発展させていってほしい。」との言葉をいただきました。
 市川とみ子(いちかわ とみこ)軍縮会議日本政府常駐代表との面会では、「被爆の実相を自分の目で見て心で感じ、それを自分の言葉で、多くの人に伝えていってほしい。」との言葉をいただきました。
 ゴズィ・オコンジョ=イウェアラ世界貿易機関(WTO)事務局長との面会では、「WTOは、貿易の制度を通じて、世界を平和で持続可能性な場所にすることや、気候変動を食い止めることを目標としている。」と説明いただきました。 その後、ユースから、核兵器廃絶へのアプローチやジェンダーに関する質問を行い、世界で最も有名な女性リーダーの一人である同氏から、丁寧なご回答と、若い世代への激励をいただきました。
(平和首長会議運営課)
 
公益財団法人 広島平和文化センター
〒730-0811 広島市中区中島町1番2号
 TEL (082) 241-5246 
Copyright © Since April 1, 2004, Hiroshima Peace Culture Foundation. All rights reserved.