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地域創生と地域の国際化への貢献を目指すJICA中国
独立行政法人国際協力機構(JICA) 中国国際センター 所長 池田 修一
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プロフィール 〔いけだ しゅういち〕
1985年筑波大学大学院環境科学研究科修了、同年、JICAに入構。
爾来、JICA本部では自然環境保全協力、高等教育協力、国際緊急援助等を担当。
海外勤務は計13年、ビルマ(現ミャンマー)、アメリカ合衆国、ラオス、2013-2016タイ事務所長。
2016年4月より現職。
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1. 日本の各地のノウハウを必要とする開発途上国
今年の3月まで約3年間タイ王国に勤務していました。
タイは人口も経済もバンコク首都圏に一極集中し、首都圏と地方の地域経済格差はますます広がりつつあります。
地域別1人当たりGDPのデータを見るとバンコクは14000USドルを超え、すでに途上国の経済水準を脱して先進国レベルに達しつつあるのですが、バンコク及び周辺工業地帯を除く地方のそれは3000USドル程度しかありません。
タイはすでに中進国に達したと言われるようになったのですが、バンコク首都圏がタイの平均値を上げているだけで、依然として地方の状況は開発途上国の真っただ中なのです。
そしてこの状況はタイに限らず多くの開発途上国に共通する問題です。
首都圏の経済開発状況は好調でも、急激な都市化による都市環境の悪化、貧富の差の拡大が起きている一方、農村部の過疎化、地域活力の減退、地域間格差の拡大に拍車がかかりつつあります。
そして格差の拡大が社会を不安定化させています。
タイではこのような状況に加え、少子高齢化も進みつつあり、開発途上国を脱していない段階で、先進国課題も抱えるようになっています。
日本でも東京一極集中や地方経済の不振、地方からの人口流出は、長年、大きな課題となってきました。
加えて日本全体の少子高齢化や人口減が追い打ちをかけています。
他方、日本は昔から地域の多様性が豊富で、地域毎に多様な文化や知恵があったように思います。
現在、地方創生の掛け声とともに、各地域が地元の資源を見つめ直し、多種多様な取り組みを進みつつあります。
課題先進国である日本の各地域の経験や実践は、失敗のケースや問題点も含め、示唆に富んだ知見を開発途上国の人々に与えることができると思います。
2. 東京を経由しない地方から直接の国際協力、海外展開の活発化
日本の政府開発援助(ODA)額が世界最大で、トップドナーと言われていた1990年代頃までは、開発途上国に流入する海外資金の中でODAの占める割合は大きく、途上国で働く日本人もODAに関わる人々が多数派でした。
しかし現在、開発途上国における社会経済開発を支える主役の座は、明らかに海外民間企業からの投資資金や人材に移っており、ODAの役割は民間セクターの活動を刺激したり、支援する触媒的なものに変わってきています。
このような変遷とともにODAの主な担い手も、中央官庁、国立研究機関、国公立大学、開発コンサルタント、大商社、ゼネコン、そして国際的に活動するNGOや開発途上国に非常に関心の高い若者など、限られたグループだけでなく裾野が大きく広がるようになってきました。
以前も地方自治体や地方の中小企業の技術者などがODA事業に参画することはありましたが、中央官庁からの要請に基づく場合か、大企業が受注したODA事業の下請けや応援要員としての参加でした。
しかし今、地方の機関や人々がより積極的に国際協力を自らのイニシアティブで戦略的に実施しようとする動きが活発化しています。
その狙いは国際協力・交流を通じた地域活性化であったり、地元企業の海外展開の推進であったりと様々です。
また地方の中小企業もこれから成長が見込める開発途上国にこそビジネスのチャンスがあると見越し、より積極的に開発途上国への進出を考えるようになってきています。
3. 中国地方の Knowledge と開発途上国のニーズをつなぐ
JICA中国国際センターは、中国地方の各地で培われた社会経済開発にかかる経験、ノウハウ、社会に役立つ優れた技術やビジネスモデルを、開発途上国が抱える開発課題に効果的に活用するための橋渡し役を果たしたいと考えています。
また中国地方の自治体、研究教育機関、民間企業やNGOなどが、地域発の国際協力あるいは海外展開を推進することを、後押ししたいと考えています。
結果として、中国地方の魅力を世界に発信したり、国際協力を通じた地域活性化や民間企業の海外展開支援により中国地方の地域創生にも貢献できると考えています。
開発途上国の持続的な社会経済開発の実現には、政府間ベースの開発援助だけでは不十分です。
例えば大学を支援し、施設を建設し、教育研究機材をアップグレードし、教員の能力を向上させ、教育内容を改善しても、そこで教育された高等教育人材が働く幅広い活躍の場がなければならないし、資金協力で経済インフラを整備しても、それを活用し、旺盛な経済活動を行う民間企業がいなければ持続的な経済開発はあり得ません。
病院を建設し、医療従事者の育成をしても、継続的に人々に医療サービスを提供していくためには薬局もいるし、医療資機材のメンテナンスや補充を実施する民間企業も必要です。
病院経営自体への民間参入も医療サービスの質を向上するために重要となってくるでしょう。
地方分権化や地方行政能力の向上を支援しても、地域の経済活動を活性化できないなら地域創生は不可能です。
国の持続的な社会経済開発には民間セクターの育成が不可欠ですが、開発途上国国内の資金と人材だけでそれを成し遂げることは困難であり、それには海外からの投資や民間の人材、技術の流入が必須です。
JICAは政府間ベースの協力以外に、日本の中小企業が持つ技術やビジネスアイディアに開発途上国の課題の改善に大きく貢献するものが多くあることに着目し、2012年度から中小企業の海外展開を支援する事業を開始しました。
中国地方についてもすでに中小企業23社からの提案29案件に対する支援を実施済もしくは実施中です。
JICAは海外92ヶ国に海外拠点を有しており、各国政府機関、研究機関、大学、地方組織等と多様なパイプを持っているし、各国における状況や課題にかかる幅広い情報も保有しています。
このJICAの海外ネットワークと情報をうまく活用すれば、開発途上国には日本の企業が持つ有用な技術を、日本の中小企業には海外でのビジネスチャンスを提供でき、双方にウインウインの効果を果たすことができると考えています。
「中小企業海外展開支援事業」以外にも、JICAの伝統的な国際協力スキームである草の根技術協力、研修員受け入れ事業、JICA海外ボランティア派遣事業を、中国地方との連携をより一層意識し、戦略的に実践することにより、地域の Knowledge をもっと効果的に開発途上国に提供し、中国地方の地域創生にも貢献できるのではないかと考えています。
例えば廃棄物処理。
日本においては「廃棄物処理及び清掃に関する法律」に基づき、行政、国民、民間事業者の責務が明確に定められ、地域一体となって適切に実施されなければならないものです。
今、開発途上国では、この廃棄物処理が多くの都市部で課題となっています。
広島県商工労働部を中心とする「ひろしま環境ビジネス推進協議会」は、JICAの地域提案型草の根技術協力を活用し、本年1月よりインドネシア共和国において「ボゴール市における一般廃棄物処理改善事業」を3年の予定で開始し、同市の一般廃棄物の分別収集、減量化・リサイクルシステムの構築を支援しています。
この案件などは、まさに広島の地域 Knowledge の活用と言えるでしょう。
またこの案件には、廃棄物処理関連の優れた技術、製品を有している広島県の企業も協力しており、それら企業が持つ技術の優秀性をインドネシアの人々に紹介する機会ともなっていますので、これらの企業のインドネシアへの海外展開にも資する可能性を秘めています。
その他の事例としては、「ないものはない」宣言を行い、ユニークな町おこし活動を展開する島根県隠岐郡の海士町。
海士町のこれまでの取り組みと成果、現在の努力、工夫、そして将来計画、どれをとっても知識の宝庫です。
開発途上国の多くの地方、僻地、離島のこれからの地域開発のあり方を考える上で、多くの示唆を与えることができると考えています。
今年、JICA中国は海士町と協力し、開発途上国行政官等対象の研修を開始する予定です。
4. 広島の平和推進、復興の経験を世界に共有するための協力
広島県出身のJICA海外派遣ボランティア等は、2004年以降、派遣された国で活発に原爆展を開催しています。
2015年度までに65ヶ国で145回の原爆展を企画、開催し、現地の人々に大きな驚きを与え、そして戦争や平和を考える絶好の機会を提供してきました。
またJICA中国国際センターでは、当センターの宿泊施設に滞在する途上国研修員に対し、来日早々に半日程度の「広島平和研修」を実施しています。
その内容は、平和記念資料館見学、講義「平和都市ヒロシマの歩み」の受講、平和記念公園見学で構成されています。
2015年度には「広島平和研修」に約300名の研修員が参加しました。
アンケート結果によると98%の研修員が「平和の大切さについて理解した」と回答し、84%の研修員は、「とてもよく理解した」と回答しています。
また平和について、そして復興について、感慨深いコメントを多くの研修員が残しています。
「復讐する代わりに広島の再建に力を注いだ人々に敬服します。」
「私も世界平和を求める大使に加わりたい。」
「広島の平和プロジェクトは本当に驚異的だと思う。」
「広島の人々が平和のメッセージを伝え続けることを希望します。」
「広島で起きたことを色々見て、とても悲しい気持ちになった。でも私はその起こった事実が世界平和を保ち続ける原動力となると信じる。」
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(平成28年6月寄稿)
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